
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の世界で戦うことを強いられている。不測の事態に適応し、成功を収めなければならないのだ。常日頃からそれを要求されているのが、軍隊である。本稿では、精鋭兵士で構成される米国の特殊作戦部隊(SOF)の研究をもとに、企業が未曾有の混乱を乗り切るうえで何が必要かを考察する。
「ほかの候補者はおそらく、あらゆる条件を満たしているのでしょう」――某金融サービス会社の最終面接で、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの元隊員は面接官にこう言った。「ですが、私について一つ断言できることがあります。この仕事で生じるどんな状況であれ、私が不安に陥ることはありません」
こう回答した元シールズ隊員は、採用を勝ち取った。伝統的に適任とされている、一流校のMBAを持つ候補者らを押さえて、である。
米国ビジネス界が軍の特殊作戦部隊(SOF)に注目し始めたのは、時節に適っている。
陸軍、空軍、海軍や海兵隊の精鋭兵士らで構成される特殊作戦部隊は、冷戦終結以降、米国の戦場戦略の中核を成してきた。ネイビー・シールズ・チーム6やデルタフォースといった伝説的な部隊も、このコミュニティの一員だ。
彼らは高リスク、危険な地形、迅速な学習に慣れている。大小あらゆる規模の編成で展開し、テロリストへの精密攻撃、情報収集、民間人との連携による現地政府機関の立ち上げまで、さまざまな任務に就く。
筆者らは数カ月前、ハーバード・ビジネス・スクールのケース執筆に着手した。テーマは、特殊作戦部隊を退役した軍人の社会復帰を支援すべく6年前に創設された、オナー財団という非営利組織についてである。
執筆にあたり、この精鋭集団のコミュニティが米国ビジネス界に持ち込めるスキルを知るために、20人ほどの退役軍人とコーチにインタビューを実施した。その過程で気づいたのは、特殊作戦部隊のスキル群が、今日の不確実な世界には間違いなく適しているということである。
米軍最優秀の兵士である彼らは、通常は35~45歳の間に退役する。類まれなる能力の持ち主にもかかわらず、退役後は優れた戦術訓練、チームワーク、リーダーシップのスキルがまともに評価されない仕事に就く状況が長らく続いていたことに、筆者らは気づいた。
10年ほど前まで、毎年退役する特殊作戦部隊員2500人のうち、社会復帰のわずか数カ月前に民間での就職が決まっていたのは13%にすぎなかった。職が見つかっても平均給与は9万ドルを下回り、働き口の多くは民間警備会社や、米国シークレットサービスなどの政府機関であった。
しかし、この状況は変わりつつある。
コロナ禍で経済と健康に打撃が及ぶ以前から、現在の企業が直面している経営環境を端的に表す言葉としてVUCA――変動性(volatile)、不確実性(uncertain)、複雑性(complex)、曖昧性(ambiguous)の頭字語――が使われていた。そしてパンデミックのさなか、企業幹部らはようやく、不測の事態への対処に慣れ親しんだ外部の人間を自社に引き入れることの重要性に気づいたのである。
米国で最も高度に訓練された軍人たちが有する、特殊かつ転用性が非常に高いスキルは、この危機が続くにつれてますます貴重となっており、シールズなどの退役者の就職率は高まっている。
VUCAの世界におけるオペレーション、統率、成功について、特殊作戦部隊のコミュニティが知っていて、米国ビジネス界が知るべきことを、以下にいくつか挙げたい。