
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の国々がデジタル化を進める重大な契機となった。ただし、その進展度は国ごとに大きく異なる。筆者らは綿密な調査を行い、世界90の国や地域の現状を「傑出」「停滞」「勃興」「要注意」という4つに分類した。韓国、シンガポール、香港のように圧倒的な速度で進んだ国と、デジタル化が思うように進まなかった国は何が違うのか。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済を4.4%縮小させる一方で、ある潮流を世界全体でいっそう加速させた。その潮流とは、デジタル化の進展である。
多くの国で、ロックダウン(都市封鎖)、休校、業界全体の休業といった措置がたびたび実施される中で、リモート教育やeコマース、在宅勤務など、デジタルケイパビリティの重要性がかつてなく高まった。
しかし実際のところ、世界の国々の現状はどうなっているのか。そして、この面で際立った進歩を成し遂げるために、政府や企業、投資家はどのような行動を取るべきなのか。
こうした問いに答えるために、筆者らが所属する米国タフツ大学フレッチャースクールはマスターカードの協力を得て、「デジタル・エボリューション・スコアカード」の第3版を作成した(第1版と第2版は、それぞれ2015年と17年にHBRに掲載した)。
この2020年版のスコアカード(今回は双方向型のポリシー・シミュレーターも用意した)では、4つの主要領域における合計160の指標を組み合わせて、90の国と地域の経済を分析した。その4つの領域とは、「供給面の状況」「需要面の状況」「制度的環境」「イノベーションと変化」である。
具体的には、45以上の公開・非公開のデータベースによるデータ、そしてフレッチャースクールの「デジタル・プラネット」チームによる分析結果に基づいて、4つの領域それぞれについて以下の点を検討した。
・供給面の状況:デジタル・エコシステムの整備を推し進めるために必要なインフラ(物理的インフラとデジタル・インフラ)は、どのくらい充実しているのか。そのインフラの中には、たとえばインターネット接続のしやすさや、eコマースに不可欠な道路の質などが含まれる。
・需要面の状況:消費者はデジタル・エコシステムに参加する意欲と能力を持っているか。デジタルエコノミーの一員になるために必要なツールとスキルを持っているか。
・制度的環境:法律(と政府の行動)は、デジタルテクノロジーの発展を促進するものになっているか。それを阻害してはいないか。政府はデジタル化を推進するための投資をしているか。データの活用と保管に関する政府の規制は、成長を後押ししているか、それとも成長の妨げになっているか。
・イノベーションと変化:イノベーションのエコシステムへの主要なインプット(人材や資本など)、プロセス(産学の協働など)、アウトプット(成長余力の大きい新たなデジタル製品・サービスなど)の状況は、どうなっているのか。
本研究では、これらのデータすべてに基づき、2つの側面に関して世界の国と地域の経済を分析した。現時点でのデジタル化の進展度と、デジタル化の「勢い」(2008~19年の12年間にデジタル化が進展したペース)の2側面だ。
この分析により、世界の国々のデジタル化の状況を「傑出」「停滞」「勃興」「要注意」の4つに分類できる。それをまとめたのが以下の図である。