Illustration by Erre Gálvez

ESG(環境、社会、ガバナンス)重視の経営を推し進めようという気運は高まっているが、そこにはまだ障害が残っている。企業がサステナビリティに関する成績を評価・報告するための統一的な基準が存在しないことだ。IFRS財団は先頃、サステナビリティ基準審議会(SSB)の創設を提案した。SSBが機能して会計基準が策定されると、企業経営にいかなる変化をもたらすのか。


 近年、サステナビリティ(持続可能性)に大きな関心を寄せる経営者や投資家、消費者が増えているが、ESG(環境、社会、ガバナンス)重視の経営を推し進める運動には、まだ大きな障害が残っている。それは、企業が自社のサステナビリティに関する成績を評価・報告するための統一的な基準が存在しないことだ。

 現実には、多くのNGOがそれぞれ独自の基準を作成していて、その状況が企業と投資家にとってややこしい状況をつくり出し、混乱を招いている。しかし、状況は変わりつつあるのかもしれない。企業会計の世界で静かな革命が進んでいるためだ。

 その革命を主導しているのは、IFRS財団だ。同財団が監督する国際会計基準審議会(IASB)の作成した財務報告基準は、世界の140以上の国や地域で大半の企業に適用されている(米国では、その種の基準は米国財務会計基準審議会〔FASB〕)によって定められている)。このIFRS財団が2020年9月、IASBとは別に、サステナビリティ基準審議会(SSB)を創設すべきだと提唱した

 IFRS財団は、このような提案を行うのにふさわしい存在だ。同財団は、基準づくりに関する専門的知識と経験を持っていて、産業界と投資界の信頼を得て、世界各国の当局からも支持されている。この提案が採用されれば、投資家やその他の利害関係者は、あらゆる企業のサステナビリティに関する成績を明確に(財務成績と同じくらい明確に)把握できるようになる。

 ほとんどの企業は、すでに自社のサステナビリティに関する報告書を発表している。しかし、そうした報告書は財務報告書と切り離されていて、財務成績とサステナビリティに関する成績の関連を理解しづらい。その点、SSBを創設すれば、両者を統合した報告が可能になるだろう。米国では、FASBが同様の取り組みを推進できるはずだ。

 IFRS財団の提案は、投資界と産業界の重鎮たちの支持も得ている。たとえば、アン・シンプソンもその一人だ。IFRS諮問会議のメンバーや、米国証券取引委員会(SEC)の投資家助言委員会のメンバーを経て、現在はカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)でガバナンス・サステナビリティ投資責任者を務めている人物である。

 シンプソンは、SSBの創設により、投資家の意思決定の質が高められると考えている。「カルパースは長期投資家として、持続可能な価値創造が可能か否かは、資金的資本、物的資本、人的資本という3種類の資本をうまくマネジメントできるかどうかにかかっていると理解しています。投資家は、IFRSとSECに対してサステナビリティ報告の導入を訴えてきました。グローバルな資本市場では、この両方が必要なのです」

 ユニリーバのポール・ポールマン元CEOも、この考え方の有力な支持者の一人だ。ポールマンは、SSBを創設することで、企業と投資家の対話のあり方が変わると考えている。「投資家は次第に、企業に対してサステナビリティに関する報告を求めるようになっています。そのための標準を設けることにより、そうした対話の質を大幅に向上させ、投資家と企業の双方がサステナビリティと財務成績の関係について理解を深められるでしょう」

 ほかには、オックスフォード大学のサイード・ビジネススクールもIFRS財団に書簡を提出し、SSBの創設を支持する意向を表明している。