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新規参入企業に対して業界の破壊者としての役割を期待する人は多いが、現実には苦戦している。既存のプレイヤーは、新参者に慣習を壊されることを嫌い、彼らを不利な立場に追い込むことが珍しくないからだ。一方、インサイダー自身が慣習を逸脱することには寛容であることが、フランスのシャンパン業界の調査によって判明した。


 新規参入者や部外者は、慣例や既得権益など惰性を生む要因に妨げられにくいため、成熟した業界の破壊者として既存のプレイヤーよりも優れている。

 一般にそう考えられているが、実際は多くの経験的証拠が示唆するように、部外者が変化をもたらそうとしても苦戦することが少なくない。筆者らは、その理由に注目した。

シャンパーニュ地方のブドウ市場

 この問題を探求するために、フランスのシャンパン業界を調査した。シニアエグゼクティブと業界の専門家78人にインタビューを行い、その定性研究を、すべてのシャンパンメゾンの10年分の広範な定量データで補完した。

 シャンパン業界が興味深い理由は、非常に成熟していることと、広く知られている確立したパターンに沿って綿々と運営されてきたことだ。しかし、水面下では構造変化の醸造が進み、さまざまなメゾンが従来と異なるやり方を再考している。

 筆者らが話を聞いた一人は、湖で泳ぐアヒルにたとえた。表面上はすべてが穏やかで安定しているように見えるが、水面下で必死に足をかいている、というわけだ。

 シャンパン業界は次のような仕組みで動いている。ブドウ畑の所有者はブドウを栽培して、メゾンに販売する。メゾンはブドウを素晴らしいスパークリングワインに仕上げて、ブランディング、マーケティング、小売業者への流通を担当する。そして、小売業者が消費者に販売する。

 近年、いくつかのメゾンが、このやり方を変えようとしている。たとえば、自社でブドウ畑を取得して垂直統合に乗り出したり、ブランディングやマーケティング、流通から手を引いて、これらを担う小売業者と提携したりしている。さらに、カリフォルニアなどほかのワイン産地に子会社を設立し、専門性を活かして、シャンパンを名乗らないスパークリングワインを手がけるメゾンもある。

 しかし、筆者らの調査によると、ブドウ生産者はこうした変化の試みに激しい反応を示すことが多く、業界の不文律に対する重大な違反と見なす。シャンパーニュ地方のブドウからつくられたスパークリングワインだけがシャンパンを名乗ることを許されているため、メゾンは彼らブドウ畑の所有者に大きく依存している。

 ブドウ生産者は、業界の利益や現状と相いれないと自分たちが考える振る舞いをした逸脱者には罰を与えると、筆者らの調査で語った。たとえば、彼らに対してブドウの価格を高くしたり、質の劣るブドウを出荷したり、取引を完全にやめたりする。業界から締め出し、暴力をちらつかせて威嚇する場合さえある。

 筆者らの定量分析によると、シャンパンのボトルの原材料コストは10ユーロ程度だが、業界の不文律を犯したメゾンに対しては懲罰的に最大13ユーロまで引き上げ、競争上、著しく不利な立場に追い込んでいた。