Illustration by Cecilia Castelli

男性がジェンダー平等を積極的に推進しないのはなぜか。その原因が自分たちにあると認めるだけでなく、職場での立場が悪くなることを恐れているかもしれない。しかし、これはゼロサムの問題ではない。女性の成功が、男性の地位や名誉を奪うわけではないのだ。職場でDEIが実現すれば、それは男性自身にもさまざまな利益をもたらす。本稿では、ゼロサム・バイアスを克服するための6つの行動を提案する。


 男性がジェンダー平等の話をしたがらない理由はわかりやすい。女性の問題の原因は男性にあるとされることが多く、積極的に関わりたくはないだろう。それだけでなく、ジェンダー平等が実現したら自分の職場での地位が危うくなると考えているとしたら、会社で本業外の活動にわざわざ取り組む理由はない。

 しかし、ジェンダー平等への歩みを進めたいなら、男性の参加は不可欠である。男性をダイバーシティ(Diversity:多様性)、エクイティ(Equity:公平性)、インクルージョン(Inclusion:包摂)のDEIイニシアチブに巻き込む最善の方法の一つは、ゼロサム・バイアスをなくすことであると、筆者らの研究が示している。ゼロサム・バイアスこそが男性の参加意欲をそぐ原因となっているのである。

 ゼロサム思考はその定義上、勝者と敗者を生む。それぞれのゴールが食い違うからだ。ゼロサム思考の人々にとって、世界は二項対立で成り立っている。自分が勝って相手が負けるか、相手が勝って自分が負けるかのいずれかしかない。両者にメリットを生む結果など、まったく考慮されない。しばしば暗黙のうちに、自動的に到達するこの考え方は、不要な溝や摩擦をもたらす。

 ゼロサム・バイアスの例は至るところで見つかる。討論会のステージ、交渉の場、職場のDEIイニシアチブを方向づける説明などは、ほんの一例だ。

 ジェンダー平等の話になった途端、ゼロサム・バイアスを持つ男性は(行動に移すことは言うまでもなく)会話に参加することさえ躊躇する。男性の成功は女性と一緒では達成できず、女性が地位を得るためには男性がみずからのリソースや地位を犠牲にしなければならないという考え方を、このバイアスが助長させるからだ。

 ゼロサム思考は誤りであることがデータで証明されているにもかかわらず、職場におけるジェンダー平等の流れにおいて深く浸透している。

 そして男性抜きでは、DEIイニシアチブは失敗に終わるだろう(何しろ、世界の企業の82%のリーダーが男性だ)。いや、すでに失敗しかかっている。2019年から2020年には後退が見られ、経済面でのジェンダーギャップを埋めるのに必要とされる推定時間は、さらに55年追加された。実質的な変化がない限り、ジェンダーギャップが解消されるまでに257年も必要だというのだ。

 加えて、コロナ禍でジェンダーギャップは拡大するばかりである。有色人種の女性は、とりわけ過酷な状況に置かれている。

 たとえば黒人女性は、パンデミックが始まってから高い失業率に直面しているだけでなく、毎月その割合が上昇し続けている。2020年2月以降、黒人女性が就いていた140万の仕事が失われた。米国の子どものいる黒人家庭のうち51%で母親が一家の大黒柱として子どもを養育していることを考えると、これは特に痛ましい数字である。

 ジェンダー平等を達成すると、組織は真のメリットを享受できる。全人種、全民族間でジェンダーギャップをなくすことに真摯に取り組んでいる企業は、利益率や自己資本利益率、生産性、イノベーションの向上を達成し、最高の人材を引きつけて維持する能力の増大や収益の増加を成し遂げている。SaaS企業のパイプラインが29カ国・4161社の企業を対象に調査したところ、ジェンダー平等が10%向上するごとに、企業の収益は1~2%増加する。

 職場におけるジェンダー間の完全平等を達成する協力者や推進者として、男性が真剣に取り組むようになるまで、何百年も待つ余裕はない。経済回復が従業員の公平なインクルージョンにかかっている時は、なおさらである。

 組織が男性従業員の間にはびこるゼロサム・バイアスを克服し、ジェンダー平等を目に見える形で改善して、経済的メリットを手にするのに役立つ6つの行動を挙げよう。