Audrey Shtecinjo/Stocksy

昨今、女性リーダーの数は増えているものの、男性の昇進ペースと比較すればまだまだ遅い。その重要な要因の一つは、フィードバックの与えられ方に男女格差が存在するからだ。マネジャーは無意識に、男性部下には昇進につながる具体的なアドバイスを与える一方、女性部下に対するアドバイスは抽象的な表現に留まったり、女性らしさを要求したりしていることが、筆者らの調査で判明した。本稿では、マネジャーが持つ無意識バイアスの正体を明らかにし、男女問わず公正なフィードバックを与えるためのシンプルな方法論を紹介する。


 ビジネスの世界でマネジャー職に就く女性は増えているが、女性が高位のリーダーの地位へと昇進するペースは、いまもって男性よりもかなり遅い。職場におけるジェンダー不平等を生み出す構造的要因にはさまざまなものがあるが、その一つの重要な要因は、成長に役立つフィードバックの与えられ方に男女間で格差があることだ。

 この問題に比べれば、過去のパフォーマンスについてのフィードバックに潜むバイアスに気づき、それを緩和することは、まだ比較的簡単かもしれない。その種のフィードバックは概して、数値で表現できる面が大きいからだ。それに対し、未来のリーダーになるためにその人がどのように変わり、成長すべきかという点に関するフィードバックは、どうしても定性的な性格が強くなるので分析しにくい。

 しかし、コンピュータを用いたテキスト分析を行うことにより、男性に対するフィードバックと女性に対するフィードバックの違いを定量的に評価できる。その違いが男女のリーダーへの道筋の違いにどのような影響を及ぼしているかも、数値で示すことが可能になるのだ。

 筆者らが最近行った研究では、機械学習の一種である「トピックモデリング」の手法(最近は政治関連のツイートの分析でよく用いられる手法だ。詳細は「研究の方法論」を参照)と、大掛かりな定性分析を用いて、成長を促すためのフィードバックに関する複雑なデータを大量に調べた。

 この研究で分析したのは、あるリーダー育成プログラムに参加したキャリア中期のリーダー146人に対するフィードバックだ。フィードバックは1000人以上の同僚やリーダーによるもので、書面により自由記述形式で提供された。分析に当たっては、その文書を匿名化して用いた。

 筆者らは同僚やリーダーたちに、プログラム参加者のパフォーマンスを数値評価することも求めた。この定量データを基に、プログラム参加者のパフォーマンスの客観的な違いがフィードバックの内容に及ぼす影響を排除して、分析を行おうと考えたのだ。

 研究の結果、男性リーダーへのアドバイスと女性リーダーへのアドバイスには、4つの側面で大きな違いがあることが明らかになった。

 見落とせないのは、以上のようなメッセージがすべて、おおむね好意的なものと位置づけられていることだ。これらのフィードバックを行う人たちは、対象である女性たちが高位のリーダーに上り詰める力を持っていると、本気で信じているのかもしれない。

 しかし、男性と女性の両方に好意的なフィードバックを行っているとしても、そのフィードバックにジェンダーバイアスが含まれない保証はない。また、フィードバックを行う側に悪意がないとしても、バイアスが切実な弊害を生み出さないわけではない。

 筆者らの研究によれば、女性に対するフィードバックは、一見すると好意的なものであっても、男性へのフィードバックに比べて、実際の行動の参考になりにくく、リーダーへの昇進にあまり役立たないケースが多い。その結果、女性が高い地位に昇進する確率が男性より小さくなってしまう。