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民間宇宙ビジネスの有望さは長年語られてきたが、その進歩は一部の領域に限定されていた。だが、スペースXが人類史上初めて、民間企業が製造・所有する宇宙船による有人宇宙飛行に成功したことで、大きな転換点を迎えたといえそうだ。民間主導の宇宙ビジネスが本格化し、「スペース・フォー・アース」(地球のための宇宙活用)から「スペース・フォー・スペース」(宇宙のための宇宙活用)へと移行することが期待されている。


 民間宇宙ビジネスがいかに将来有望か、という話を耳にすることは多い。しかし、スペースエコノミー(宇宙経済)はこれまでのところ(少なくとも宇宙規模で見れば)極めて「局地的」なものにとどまっていた。テクノロジー界のリーダーたちは月面基地や火星移住という夢を語っているが、それは実現してこなかったのだ。

 しかし2020年、宇宙開発の歴史が大きな転換点を迎えた。人類史上初めて、政府ではなく、民間企業が製造・所有する宇宙船が有人宇宙飛行に成功したのである。最終的に目指しているのは、手の届く料金による宇宙移住を実現することだ。

 今回の成功は、「宇宙における、宇宙のための」宇宙ビジネスの構築に向けた重要な最初の一歩と言える。この一歩がビジネスと政府の政策、そして社会全体に対して持つ意味は非常に大きい。

 2019年、宇宙産業の売上高は推計3660億ドルに上った。このうちの95%は、言ってみれば「スペース・フォー・アース」(地球のための宇宙活用)エコノミーによるものだった。通信・インターネット接続のインフラ、地球観測システム、国家安全保障用の人工衛星などである。

 このビジネスは、いま好景気に沸いている。研究によれば、希少な天然資源をめぐる競争が過熱すれば、市場に多くの企業が参入しすぎたり、独占が生じたりする恐れはある。しかし、未来の展望は明るい

 打ち上げのコストが下がり、機器がおおむね安価になるに伴い、市場に新規参入する企業が増えてきた。また、幅広い業種の多くの企業が人工衛星テクノロジーと宇宙へのアクセスを活用して、自社の地球上での製品やサービスにイノベーションを起こし、効率化を高めようとしている。

 これとは対照的に、「スペース・フォー・スペース」(宇宙のための宇宙活用)エコノミー――つまり、宇宙で用いるための製品やサービスを宇宙でつくる経済活動――は、うまく軌道に乗れていない。たとえば、宇宙での生活拠点を建設したり、宇宙で燃料補給を行ったりするために、月や小惑星を掘削するといったビジネスがこれに該当する。

 早くも1970年代には、米国航空宇宙局(NASA)の委嘱により行われた研究の中で、宇宙に拠点を置くビジネスの台頭が予測されていた。宇宙で暮らす膨大な数の、ことによると何百万人もの人たちのニーズを満たすためのビジネスが成長し、スペース・フォー・アースのエコノミー――そして、いずれは地球上の経済活動のすべて――よりもはるかに規模が大きくなるとのことだった。この予測通りになれば、すべての企業のビジネスとすべての人の人生、さらには政治のあり方が様変わりすることになる。

 今日に至るまで、このシナリオは現実になっていない。これまで1度に同時に宇宙に滞在した人類は、最大で13人だ。NASAが描いた未来像は、ほとんどSF映画の中の話にとどまっている。

 しかし、いよいよ真のスペース・フォー・スペース経済の時代に突入しつつあるのかもしれない。2020年にスペースXがNASAとの協力により成果を挙げたことに加えて、今後はボーイングブルーオリジンヴァージン・ギャラクティックが継続的に、そして大規模に人類を宇宙に送り込むことを計画している。こうした動きは、民間企業による宇宙飛行の新しい一章の扉を開くものといえる。

 これらの企業は、民間人を乗客や旅行者、いずれは移住者として宇宙に送り込む意思と能力を持っている。それが実現すれば、向こう数十年の間に、そうした民間人のニーズに応えるためにスペース・フォー・スペースの製品やサービスを提供するビジネスが生まれるだろう。