
現在あるいは過去のパートナーから何かしらの虐待を受けている女性は、あまりに多い。IPV(親密なパートナーからの暴力)を私的な問題と見なす企業は珍しくないが、被害者を守るためにも、同僚が苦しむ姿を見て心を痛める従業員を支援するためにも、組織として真剣に対処すべきだ。本稿では、企業がIPVを放置すべきでない理由を明らかにし、職場で実践すべき4つの取り組みを紹介する。
「私はどうすれば助けてあげられるのでしょうか。私にできることはないのですか」――パリを拠点に活動するNGOのアン・アヴァン・トゥートを訪ねてきた人物はそう言った。アン・アヴァン・トゥートは、ジェンダー平等を推進し、女性や若いLGBTQの人たちへの暴力をなくすことをミッションに掲げる団体だ。
この人物は難しい状況に置かれていた。職場の同僚の一人が私生活上のパートナーから暴力を振るわれているのではないかと疑っていたが、どうすればその同僚の力になれるのかわからなかったのだ。「仕事上の人間関係である以上、あまり深く立ち入るわけにはいかないとも思っています。そのような状況でどのように対応すればよいのか見当がつきません」
現在あるいは過去に親密な関係にあった人物による暴力は、IPV(Intimate Partner Violence:親密なパートナーからの暴力)と呼ばれる。暴力の形態はさまざまだ。身体的、言語的、感情的、経済的な面での暴力や、性的虐待などが含まれる。あらゆる人種・民族、階層、社会集団の人が、その被害を受ける可能性がある。
IPVは、私的な問題と見なされることが多いが、職場にも影響を及ぼす。被害者の頻繁な欠勤につながる場合もある。また、企業などの組織は、被害者へのストーキング行為など、IPVが仕事の領域に波及する事態にも対処しなくてはならない。
2020年にアン・アヴァン・トゥートとイヴ・サンローラン(YSL)・ボーテが実施した調査プロジェクトでは、IPVについて知り、それを予防するために企業が果たせる役割――IPVの被害を受けている社員に気づくことや、社員たちが互いに助け合うように促すことなど――に光を当てた。
この調査プロジェクトでデータ分析を担当したのが、本稿筆者の一人であるリビングストンだ。以下では、この分析により明らかになったことを紹介しよう。