
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界中でデジタル化が急速に進んだ。テクノロジーが社会にさまざまな価値をもたらすことは明らかだ。一方で、個人情報の流出や偽情報の拡散など、ひとたびその問題点が明らかになれば、デジタルシステムへの信頼(デジタルトラスト)は容易に失われる。デジタルトラストを構築するためには、何をすべきなのか。本稿では、筆者らが42カ国・地域の比較調査を実施した結果に基づき、4つの重要なポイントを提示する。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、否応なしに世界中でデジタル化が急速に進行した。
学校ではオンライン学習が本格的に導入されるようになり、多くの職が全面的にリモートワークに移行して、幅広い業種で業務の自動化が加速した。加えて、多くの国は、コロナ対策での接触者追跡、感染の有無を調べる検査、政府による支援金の支給、ワクチン接種などにデジタルシステムを採用している(ただし、成果は良好な場合ばかりではないが)。
こうしたデジタル化の進展を通じて、テクノロジーが社会に計り知れない価値をもたらせることが、あらためて明らかになった。しかし、それと同時に、デジタルツールがいかに脆弱なものか、そしてそのようなツールに対する人々の信頼がいかにたやすく失われるかも浮き彫りになった。
すべての人々を結びつけるデジタルシステムへの信頼を育むためには、まず現状で人々がそのようなシステムをどれくらい信頼しているか(あるいは信頼していないか)を把握することから出発しなくてはならない。
そこで、筆者らはマスターカードおよびタフツ大学フレッチャースクールと協力して、デジタルシステムへの信頼(デジタルトラスト)を構成する4つの主たる要素について、世界の国々による違いを分析した。その4要素とは、デジタル環境のセキュリティと信頼性、デジタルツールのユーザー体験の水準、ユーザーがデジタル環境に対して抱いている信頼の度合い、そしてユーザーが実際にデジタルツールを活用している度合いである。
筆者らはこの分析に基づいて、「デジタル・トラスト・スコアカード」を作成した(2018年に発表したものの増補改訂版。双方向型のポリシーシミュレーターも用意した)。このスコアカードでは、42カ国・地域のデジタルトラストの4要素を検討した。本稿では、まず4要素をどのように数値評価したかを説明し、そのうえでこの分析を通じて見えてきたことを、いくつか指摘したい。