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近年、資本主義のあり方を見直そうという動きが至るところで見られる。米国ビジネスラウンドテーブルが「企業の目的に関する声明」を発表したり、投資機関が国連責任投資原則(PRI)に署名したりという行動は象徴的だ。しかし、ほとんどの企業が、実際には大した成果を上げていない。行動を伴わない誓約を行ったり、自社の取り組みを喧伝したりすることは、ESG(環境、社会、ガバナンス)経営を真剣に実行する企業の足を引っ張る。また、利害関係者からの信頼を失うことにもなりかねないだろう。


 2018年、クリーンテクノロジーの寵児ニコラ・モーターは、ある動画を公開した。人里離れた場所にある一筋の道路を、同社の新型電気トラックが夕日を背に走っていく様子が、ドラマチックな音楽とともに映し出されている。動画にはこんな字幕が出る。「刮目せよ。1000馬力、排ガスゼロのセミトラック、ニコラ・ワンが走る姿を」

 それは、業界に激変をもたらす可能性を期待させる動画であった。投資家たちの間で熱狂が広がった。2020年夏、ニコラの時価総額は一時フォード・モーターを上回った。利益をまったく生んでいないにもかかわらず、である。

 ところが、動画はフェイクだった。同社はトラックを丘の上までけん引し、坂を下っていく様子を撮影したのだ。これには一本取られたと言わざるをえない。重力ほどクリーンなエネルギーはないのだから。

 ニコラの目標は、「今日の商業が及ぼす経済と環境への影響に、革命的変化をもたらす」ことだ。高尚な野心であり、同じ志を持つ起業家、ビジネスリーダー、投資家が増えている。彼らは企業の持続可能性、インクルーシブ(包摂)、社会的責任を高めるために、資本主義を内部から改革しようと望んでいる。

 資本主義の改革を目指す潮流によって、近年では方針を改める企業が相次いでいる。

 米国最大手企業(コムキャスト、コカ・コーラ、ウォルマート、ウェルズ・ファーゴ等)のCEOらに代表されるビジネスラウンドテーブルは2019年夏、「企業の目的に関する声明」を発表した。これは、資本主義が株主だけでなく労働者、顧客、環境に資することを望む人々による幅広い連携に加わる動きであり、ここにはU2のボノから、ブラックロックのラリー・フィンクCEOまでさまざまな面々がいる。

 また、運用資産額を合わせると100兆ドルにも上る数々の投資機関が、投資において環境、社会、ガバナンス(ESG)の問題を重視することを提唱する国連責任投資原則(PRI)に署名している。

 筆者らはベイン・キャピタルのソーシャルインパクト・ファンド創設に関わった投資家として、より広義の利益に向けてビジネスの方向性を改める取り組みを称賛したい。しかしながら、最近のESGの取り組みに対しては、懐疑の目を持って接するべきである。

 100兆ドルの資産を動かす投資家たちが、より責任ある投資を約束したとなれば、実際に何が起きるのだろうか。答えは――少なくともこれまでのところ――大した成果はない。

 2020年の研究によれば、PRIに署名した投資機関は、投資を通じての社会・環境への貢献で成果を上げていなかった。署名機関は「ESGに目立った改善をもたらすことなく、資本を引き付けるためにPRIのステータスを利用している」と研究者らは述べている。

 同様にビジネス・ラウンドテーブルの声明に署名した企業も、コロナ禍の中での雇用の保護と従業員の安全確保において、署名していない企業と比べて大して変わらなかったという。

 企業の誓約が不誠実であったり、変革するという約束が大げさであったりすれば、そうではない他社による本当の成果を台無しにしかねない。

 リサイクルに関する不誠実な主張と、廃棄物の削減に向けた実質的な措置を区別することは、大半の人々にとって容易ではない。後者の例は、プラスチックの使用を半分に減らすユニリーバの取り組みや、使用済みの医療システムをすべて再利用するフィリップスの取り組みなどだ。

 あるいはコロナ禍のさなか、従業員への一時的な給付金と、恒久的な改善とを区別するのも難しい。後者の例としてコストコは、基本給を米国最低賃金の2倍以上となる時給16ドルに引き上げると発表した。

 名ばかりの施策や片手間の慈善活動は、世間の信頼を失わせ、改革の動きそのものに対する反発を招くことになる。公共の利益に資するための活動が、短期的な利益を最大化し続けるために選ばれた流行語へと成り下がってしまうおそれがあるのだ。