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新型コロナウイルスの感染拡大は社会に大きな変化をもたらし、コロナ以前の「ふつう」に戻ることはないだろう。パンデミックを通じて顧客の思考や行動も変化する中、マーケティングはどう再定義されるのか。本稿では、マーケターにとって「真理」とされていた10のルールに疑問を投げかけ、新しい真理を紹介する。


 2020年は前例のない1年となり、2021年が昔の「ふつう」に戻ることはまずない。そう言って差し支えはないだろう。

 そこで、マーケターが今後のブランド構築を考えるに当たり、新型コロナウイルスのパンデミックから学ぶべきことは何か。企業の成長を加速させるために何ができるだろうか。コロナ時代に、マーケティングはどのように再定義されるのだろうか。

 こうした問いかけに答えることは、今後のマーケティングを成功させるために重要だ。筆者はこの数カ月、自分がメディアやマーケティングに携わってきた20年間で学んだことと、わずか1年で大規模な変化を経験しながら社会全体が学んだことを比較して考察した。そこからパンデミックがマーケティングに関する重要な真理に疑問を投げかけて、新しい方向性を示している10のルールが明らかになった。

(1)古い真理:マーケティングは顧客を知ることから始まる

 新しい真理:マーケティングは顧客セグメントを知ることから始まる

 新型コロナウイルス危機は、私たちがすでに知っていることをあらためて強固にした。すなわち、ブランドは局地的かつ明確な言葉で語り、人々の状況と彼らに最も関連のあることに基づき、特定の消費者にターゲットを定めなければならない。

 そのためには、国や州、地域ごとに現地の状況を正しく理解する必要がある。銀行やレストラン、小売店などは、店舗ごとにコミュニケーションを調整しなければならない。

 マーケティングのメッセージは、ジオグラフィック(地理学的属性)以外にも、個人に関連していなければならないこともわかってきた。ただし、年齢やジェンダーなどのデモグラフィック(人口統計学的属性)ではなく、個人の状況や価値観に沿ったものだ。

 広告のメッセージの中で個別の人間的なつながりを築くには、消費者セグメントの定義が必要になる。消費者セグメントは、サイコグラフィック(心理学的特性)や態度の特性など、購買行動に影響を与える多角的な側面から人々を描写する。

 EY Future Consumer Index(これからの消費者像に関する指標)では、パンデミックが始まって以降、20カ国の1万4500人を対象に5回の調査を実施。5つの消費者セグメントが見えてきた。

1. 価格優先(消費者の32%):収入と予算の範囲内で生活し、ブランドよりも製品の機能性を重視する。

2. 健康優先(25%):自分や家族の健康を守り、安全性を信頼できる製品を選んで、購入する際のリスクを最小限に抑える。

3. 環境優先(16%):環境への影響を最小限にしようと考え、自分の信念を反映するブランドを購入する。

4. 社会優先(15%):より大きな利益のために協力して、誠実で透明性の高い組織から購入する。

5. 経験優先(12%):瞬間を生きて人生を最大限に楽しみ、新しい製品やブランド、経験を積極的に受け入れる人が多い。

 顧客のセグメンテーションやペルソナを活用することによって、メディア戦略やマーケティングの独創的なアプローチに、より深い洞察がもたらされる。さらに、これらの洞察をカスタマージャーニー全体に反映させることができる。

(2)古い真理:競争相手は競合他社

 新しい真理:競争相手は顧客が直近でした最高の体験

 消費者の期待は、新型コロナウイルス感染症の以前からすでに高まっていた。Z世代は生まれた時点から、テクノロジーが日々の生活にシームレスに組み込まれている。(コスメブランドのグロッシアーやファッションブランドのパラシュートなど)消費者と直接取引するD2C企業は、私たちの個人情報を熟知し、ハイパー・パーソナライゼーションを追求する条件が整っていた。

 しかし、コロナウイルスの襲撃を受けて、デジタル・トランスフォーメーションは一夜にして加速した。その結果、企業がよりデジタルな体験を提供することに関して、消費者の期待は急激に高まった。

 シームレスなデジタル取引をはるかに超えたものを顧客は期待していると、シティ・グループのカーラ・ハッサンCMO(最高マーケティング責任者)は昨年、語っている。顧客としては、企業は自分たちの個人データを持っているのだから、カスタマージャーニー全体で予測に基づいてパーソナライズされた体験を求めている。

 高まる期待に応える顧客体験を確実に提供するために、以下の3つの戦略が必要になる。

1. 数値によるブランドの評価を、顧客対応を行う組織全体の主要KPI(重要業績評価指標)とする。一定の期間をおいて振り返る評価ではなく、リアルタイムの分析が望ましい。

2. データとテクノロジーの適切な基盤を構築し、カスタマージャーニー全体を通して、テクノロジーを有効に活用する。

3. カスタマージャーニー全体を通して、個人の目標と組織の目標をすり合わせることで、最終消費者にマーケティング、セールス、カスタマーサービスなどの非連続性を感じさせない。

(3)古い真理:顧客は自分が欲しいものを求めている

 新しい真理:顧客は自分が「まさに」欲しいものを求めている

 顧客の要求が上がり続けるなら、B2CとB2Bの双方において、顧客体験の新しい価値を追求しなければならない。今日の消費者はあらゆる体験に対し、摩擦を感じさせず、予測にもとづいたもので、自分に関連があり、つながっていることを期待する。要するに、とにかく欲しいものを欲しい時に手に入れたい、それを何にもじゃまされたくない、と思っているのだ。

 このような顧客体験を創出するために、企業はデータとテクノロジーを組織の中核に据えなければならない。それにはある程度の機械学習や人工知能(AI)を組み入れることが必要だ。データを活用することによって、以下の「4つのC」のうち1つまたは複数の次元で、より適切な体験を生み出すことができる。

・コンテンツ(Content):メールやモバイルアプリなどの体験で提供できるもの。
・コマース(Commerce):実店舗、eコマース、ハイブリッドな体験など。
・コミュニティ(Community):B2Bのバイヤーを集めてバーチャルな見本市を開催する、消費者向けに住宅修理のウェブセミナーを開催するなど。
・コンビニエンス(Convenience):消費者にクーポンや得意客向けの特典を提供するなど。

 これら4つのCの大半は汎用的なアプローチで提供されているが、消費者がこれまで以上に、より強固なパーソナライゼーションを求めるようになると、企業はより多くのデータと戦略的な情報を活用して意思決定を鋭敏にし、顧客とのやり取りに高い関連性を持たせ、自分たちのブランドとより強い人間的な結びつきを構築しなければならない。