
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進むにつれ、ポストコロナに向けた店舗運営に悩む小売業者は数多い。顧客を全面的に迎え入れるのであれば、最前線で働く従業員の安全をどう守ればよいか。対面型店舗に欠かせない接客を、どう管理すべきか。筆者らによれば、社会的距離を保ちつつ、必要な接客を行うためのカギが、従業員の服装にあるという。フォーマルな服装とカジュアルな服装では、買い物客が受け取るメッセージが異なり、接触の度合いにも差が出るというのだ。本稿では、小売店舗の従業員の服装が顧客にもたらす影響について説明し、必要に応じて使い分けるための手法を紹介する。
コロナ禍による行動制限やロックダウンが終息に近づくにつれ、多くの小売業者が、顧客を迎え入れるか、最前線で働く従業員の安全を守るかの岐路に立たされている。
レジ周りのシールド用アクリル板や物理的距離を保つよう促すサインは、どれも従業員の安全を考えてのものだが、同時に顧客との交流を減らすものでもある。
また、安心して職場に戻る従業員もいるが、米国では新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を完了した割合が人口の3分の1にも満たないにもかかわらず、マスク着用義務が解除されたために、顧客との接触に不安を感じる従業員もいる。
対面型の小売業がコロナ禍から立ち直るには、これらの課題に対処することが不可欠だ。コロナ危機前の調査では、顧客の90%が、店員から必要な助けが得られない場合、手ぶらで帰ると答えている。
必要ではあるが接触を阻む障壁が数多く存在するいま、どのようにすれば、どの店員が近距離での接客に積極的かを買い物客にさりげなく伝えることができるだろうか。そのカギとなるのは、従業員の服装規定かもしれない。
●服装は顧客に何を伝えるか
コロナ禍前に筆者らが実施した、従業員の服装と買い物客によるアプローチの意向に関する研究によれば、従業員の正装は専門知識の高さを表し、買い物客に接触を促す働きをしていることが示されている。
研究では、買い物客が店員に接触する割合を、フォーマルな服装の従業員(白衣を着たヘアサロンの従業員)とカジュアルな服装をした従業員(白いポロシャツ)とで比較したところ、前者に接触する割合は後者のほぼ2倍だった。その理由についても調査したところ、参加者がフォーマルな服装の従業員をカジュアルな服装の従業員よりも専門知識が豊富であると見なし、よりよいサービスを受けられると期待していることがわかった。
さらに最近の研究で、フォーマルな服装の従業員とカジュアルな服装の従業員が両者ともマスクを着用している場合でも、買い物客は依然として前者を選好する傾向が高いことが示されている。
●小売店舗で社会的距離を保つ服装
筆者らの研究結果からは、小売業者が社会的距離を保つ方法の一環として、2つの点で従業員の服装に配慮すべきことが示唆されている。
第1に、顧客が積極的に従業員に質問したいと思ってくれれば、顧客は店内を探し回ったり、商品を触ったり(箱を手に取って裏面を読む必要がある場合など)、もしくは何も買わずに帰るという無駄な時間を削減できる。
第2に、従業員が近距離での接客を避けたい場合、フォーマルな服装を避けることで、そのことを買い物客に伝えるシグナルを出せる。この効果をわかっていれば、ワクチンを未接種の従業員はカジュアルな服装をして、ワクチンを接種済みの従業員はフォーマルな服装をすることで、買い物客に対して未接種の従業員ではなく、接種済みの従業員に声をかけるよう促すことができる。
また、相手との距離を縮めることをいとわない従業員には別の色の服を着てもらい、そのことを店頭に掲示することで買い物客に知らせるといった、より明確なコミュニケーションを検討するのもよいだろう。