HBR Staff/NoDerog/Getty Images

コロナ禍を乗り切るための大胆な景気刺激策が功を奏し、米国経済は急速な景気回復を実現している。売り手市場で労働者の賃金水準が上昇する中、企業は利益を保つことができるのか。本稿では、これから起きうる4つのシナリオを描き出し、労働者、企業、政策当局のそれぞれにもたらす影響を分析する。そのうえで、ポストコロナの経済で勝者となるために、企業が何をすべきかを提示する。


 米国では目覚ましい景気回復が進行し、企業経営者は早晩、これまでも繰り返されてきた問いに直面することになる。景気回復に伴い、労働者が経済産出量の増加に対する取り分をより多く要求し、賃金水準が上昇し始めると、企業の利益は縮小してしまうのか、という問いだ。

 労働力の売り手市場が続くことがほぼ確実な状況の下、コロナ後の景気拡大期に労働者と企業がどのように経済産出量を分かち合うかについては、複数のシナリオが想定されうる。コロナ禍で大掛かりな景気刺激策という賭けに打って出た政策当局も、今後の方針を見出す必要がある。

 筆者らは、賃金の上昇、生産性の改善、そして政策マネジメントという3つの要素がいかに相互作用するかについて、実現可能性の高いシナリオをいくつか描き出した。それらのシナリオを見ると、労働者と政策当局が容認できるシナリオはいくつかあるが、企業にとって真に魅力的と言えるシナリオは1つしかない。

継続中の景気刺激策

 2020年にコロナ禍が経済を直撃した時、米国政府は大規模な景気刺激策を実施した。これは必要な措置だった。実際、この政策のおかげで、米国経済は構造的なダメージを被らずに済んだ。経済が構造的なダメージを受ければ、景気回復の足が引っ張られかねない。

 その後、米国経済は予想を上回る回復を見せているが、バイデン政権と米国連邦議会は追加の景気刺激策を行うことにした。景気をさらに押し上げて、コロナ後の世界で国民の経済状態を改善したいと考えたのだ。

 ただし、このような景気刺激策にはマイナスの側面もある。経済のバランスが失われるリスクがついて回るのだ。経済が「オーバーシュート」することの結果として、インフレが進行したり、資産バブルが発生したりする恐れがある。

 以下の図は、今回の景気刺激策という賭けがどのような結果をもたらすか――言い換えれば、誰が勝者になり、誰が敗者になるか――という4つのシナリオを示したものだ。本稿では、それぞれのシナリオを検討したうえで、どのシナリオが最も実現可能性が高く、そのシナリオがビジネスリーダーにどのような意味を持つかを論じたい。