
ビジネスの世界で、実験革命が起きている。大量のデータ入手とその処理が可能になったことから、実験的研究手法を活用して、さまざまな経営の意思決定プロセスに役立てているのだ。その一方、未来のリーダーを育成するMBA課程では一部を除いて、実験を体系的に教えるカリキュラムはほとんど存在しない。実用的なデータを企業がますます求める中、ビジネススクールもプログラムとして実験の基礎を教えるべきだと筆者らは主張する。本稿では、実験文化が企業にもたらす恩恵を紹介したうえで、MBA課程に実験をどう取り入れるべきかを論じ、ビジネススクールに必要な3つのアクションを提言する。
「ランダム化比較試験は歴史的に、学術研究における奥義のような存在だったが、いまやメインストリームへと劇的な飛躍を遂げた」
――マイケル・ルカ(ハーバード・ビジネス・スクール准教授)、マックス H. ベイザー(同校教授)
企業の意思決定に根本的な変化が起きている。伝統的に、科学的手法に従って実験を行うのは科学者の世界でのことだったが、現在ではあらゆる業界のマネジャーが前例のないスケールで、実験文化を判断プロセスに取り入れている。
たとえば、マイクロソフトの検索エンジン「ビング」(Bing)では、プロダクト変更の約80%は、まず対照実験でテストされる。EC大手のイーベイは、シンプルな社内研究により、同社にとって検索連動型広告にはさほどの効果がないことが明らかになったため、年間数百万ドルの広告費を節約できるようになった。グーグルでは実験によって、採用面接の質問項目の中でも採用後のパフォーマンスと関連性が高いものを調べ、採用可否の判断ではそれらに対する候補者の回答を重視している。
消費者に関する大量のデータが入手できるようになったこと、コンピュータのデータ処理能力の向上、さらにこれまでになく容易かつ低コストで実験参加者を無作為化することが可能になったことが相まって、企業で「実験革命」と呼ばれるものが台頭する完璧な環境が整ったのだ。
企業が実験を活用して決定を下すべく、実用的なデータを強く求めるようになる中で、MBA課程のプログラムも、未来のリーダーに必要なスキルを備えるために変わらなくてはならない。