
中国の成長は著しく、なかでも若い世代の消費力は目覚ましい。グローバル企業や投資家はその点に注目し、中国の若者たちの理解に努めているが、ステレオタイプに囚われた分析をしがちだ。本稿では、ヤング・チャイナ・グループ創業者のザック・ダイクウォルドが、世代による違いを正しく理解するためのフレームワークを紹介する。
「中国のミレニアル世代もアボカド・トーストが好きなんでしょうか」
1カ月前、あるグローバル企業の幹部から大真面目で尋ねられた。
この類いの質問を投げ掛けられるのは、筆者がヤング・チャイナ・グループというマーケットインサイト企業の創業者だからだ。ロンドンでもカイロでもリオデジャネイロでも、講演を行うといつも同じ質問を受ける。「中国の若い世代は、私たちの国の若い世代とどのように違うのでしょう」
同様の質問を受けることがあまりに多いので、筆者はそうした問いに答えるために、さまざまな局面で活用できるフレームワークを構築した。いま急速に変化しているグローバルな消費の地殻変動への理解を深めることを目的とするものだ。それを用いることにより、ヤング・チャイナ・グループはグローバル企業や投資家が中国と欧米の若い消費者を理解するのを助けてきた。
しかし、このフレームワークの用途はこれに限定されない。より幅広い局面で活用することができる。
このフレームワークは、4つの「問いの軌道」によって構成される。消費者を理解するためのおおよその基本要素のようなものだと考えてほしい。以下では、4つの要素を紹介したい。
1. 世代のパワー
若い世代は、この国の市場でどれくらいの影響力を持っているのか。
どの世代が最も強い経済的影響力を持っているかは、国によって異なる。若い世代が自国の消費のエコシステムに及ぼす経済的影響力の大きさは、国によってまちまちだ。欧米のほとんどの国では、富はいまだにベビーブーム世代以上の年齢層に集中している。この点は、以下の図が浮き彫りにしている。
私たちがこの点を見落としがちなのは、ニュースでは若い世代の動向が大きく取り上げられることが多く、広告でもいかにも購買力を持っていそうに描かれているからだ。ミレニアル世代とZ世代は、米国でトレンドを牽引し、ニュースでも話題になっているかもしれないが、いまもベビーブーム世代が米国市場の核となる消費者であることに変わりはない。市場を動かしているのは、あくまでもベビーブーム世代なのだ。
対照的に、中国では若い世代がトレンドをつくり、しかも市場も動かしている。その一つの要因は、若者世代の人口の大きさにある。中国の若い世代(ここでは40歳未満を指すものとする。米国のミレニアル世代とZ世代にほぼ相当する)の人口は、米国の同世代の5倍に上る。
しかし、それだけではない。いまの中国の若い世代は、この国で「消費すること」を自然と感じるようになった最初の世代なのだ。この世代は経済発展著しい中国で生まれ、このような文化以外を知らない。この点で、親の世代や祖父母の世代とは大きく異なる。
親世代や祖父母世代は、ほとんどの人が貧しい暮らしを経験し、政治の状況も今日とはまるで違った。そうした経験を通じて、よく知られているように、倹約の精神が身に染みついている。そのような生き方は、20世紀の大恐慌の時期に、多くの米国人が身につけた姿勢とよく似ている。中国の年長世代は消費者になることを学ばなくてはならなかったが、若い世代はごく自然に消費活動を行っているのだ。
中国の年長世代は、中国の慣用句によれば「苦いものを食べる」ことに長けているのが特徴だ。遠い将来に満足を得るために、長期間にわたってつらいことに耐えるのが得意なのだ。ある意味で、中国経済の歴史は、年長世代が過去に苦いものを食べて辛抱したおかげで、今日の若い世代がおいしい食事を楽しめている、と表現できるかもしれない。
その結果、中国では世代による購買力の格差が大きく広がっている。中国における高級品や高級サービスの消費額の79%は、40歳未満の層が占めている。マッキンゼー・アンド・カンパニーとベイン・アンド・カンパニーの分析によると、2025年までに中国は世界全体の高級品市場のおよそ半分を占めるようになる。
コロナ前の時点で、中国は国民の海外旅行支出額で世界1位だった。そして、中国国民が所持しているパスポートの3分の2は、40歳およびそれ未満の人たちが持っている。また、米国で学ぶ留学生の3分の1は中国出身だ。米国の大学は、中国人の教育消費への依存度を強めている。近年の米中貿易戦争の初期、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校などの大学は、中国人留学生が締め出された場合の減収に備えて、かなり高額の保険を契約したくらいだ。
自国の市場に及ぼす影響力の大きさについて、同じ年齢層をグローバルに比較する場合、基本的には「人口の大きさ+購買力=世代のパワー」と考えればよい。このほかに考慮すべき要因としては、それぞれの世代の消費傾向と、世代間の富の移動を挙げることができる。これらについては後述する。