Illustration by Ty Dale

人種的不正義やジェンダー不平等といった現代社会の課題に取り組むためにも、企業という組織を進化させることがますます求められている。だが、実際にダイバーシティやインクルージョンのある組織を構築しようと、さまざまな制度や仕組みを用意しても、それだけでは足りない。筆者らが説くのは、組織文化というインフォーマルな手段を併せ持つことの重要性だ。そこでカギとなるのが、組織文化における学習志向である。本稿では、HBR読者1万9000人を対象に行われた調査結果から、学習する文化を醸成し、ダイバーシティやインクルージョンを確固たるものとしてパフォーマンスに結びつけるために、リーダーが何をすべきかを論じる。


 2020年5月に、黒人男性ジョージ・フロイドが白人警察官によって殺害された事件は、人種的不正義について反省を促すとともに、多くの企業リーダーに、現代社会の大きな課題に対処するには組織を進化させる必要があることを認識させた。

 米国の多くの組織が、エグゼクティブのポジションに過小評価されているグループからの登用を増やし、ダイバーシティ(多様性)を高めることを公式に発表している。ナイキスターバックスウーバーのように、取締役会がさらに踏み込み、エグゼクティブの報酬をダイバーシティ目標の達成度と結びつける企業もある

 こうしたポリシーの効果はまだ明らかになっていないが、過去の研究や経験から、短期的には、金銭的インセンティブが行動の変化を促すうえで有効になりうることがわかっている。だが、こうしたポリシーは、持続可能で永続性のある組織変革をもたらすのだろうか。

 リーダーは、組織変革の正式な仕組みを構築するだけでなく、組織文化というインフォーマルな手段に注目することが重要だと、筆者らは考えている。そこで、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の読者1万9000人以上に、自分の組織におけるダイバーシティとインクルージョン(包摂)を評価し、その組織の中心的な文化特性にランク付けを行ってもらった。

 その結果、ある特定の組織文化が、ダイバーシティとインクルージョンのある組織か否かを分かつカギとなることが明らかになった。それは、学習志向だ。

 適切な組織文化を醸成するのは、長い時間を必要とする困難なプロセスだ。学習する文化への移行を成し遂げるには、ダイバーシティ目標を掲げ、金銭的インセンティブを支払うよりも長くかかるだろうが、それをやり遂げることができる組織は、長期的に、エクイティ(公平性)、ダイバーシティ、インクルージョンのある組織を構築できるだろう。

学習する文化とは何か

 いかなる組織の文化にも独自性があるが、変化への対応(安定か、柔軟性か)と人間関係(独立性か、相互依存性か)という2つの軸に対して、8つの異なる文化特性(思いやり、目的意識、学習、楽しさ、結果志向、権力、安全性、秩序)がどう位置づけられるかによって、全体像を表すことができる。

 学習志向の文化は、柔軟性があり、オープンマインドで探求心を重視し、組織に適応力とイノベーションを与えることができるものだ。

 組織文化は戦略と一致した時、大きなパワーを発揮する。そのため、すべての組織に効果を発揮する万能策は存在しない。だが、学習する文化がもたらす柔軟性は、極めて不確実な現在のビジネス環境を乗り切るうえで有益だろう。