Kilito Chan/Getty Images

心理的安全性の重要性が、さまざまな業界で認知され始めている。しかし、従業員が互いの弱さをさらけ出し、率直に意見を言い合える環境をつくるのは、けっして簡単なことではない。心理的安全性は、適度に健全な職場環境を用意すれば自然と高まるものではなく、コミットメントと野心が不可欠だ。本稿では、リーダーが実践すべき4つのステップを紹介する。


 ここ最近、心理的安全性についてビジネス系メディアで言及されることが非常に多くなり、その重要性はヘルスケア、IT、金融サービスなど、さまざまな業界で認識されているようだ。パンデミック以前から話題になっていた心理的安全性は、アジリティ(敏捷生)ダイバーシティ&インクルージョンリモートワークなどとの関連性から、さらに注目を浴びている。

 しかし、広く普及するに伴い誤解が生じている。ビジネスリーダーの間で見られる重大な誤解の一つが、ハラスメントがないことや労働者を怪我から守ることと同じように、適度に健全な職場環境であれば心理的安全性は存在する、というものだ。実際には、心理的に安全な職場環境は稀である。

 心理的安全性、すなわち率直さや脆弱性が歓迎されるという確信を職場で醸成することは実に困難で、並外れたコミットメントとスキルを必要とする。その理由は簡単で、アイデアを表明しなかったり、質問することを躊躇したり、上司に反論するのを敬遠したりするのは自然なことだからだ。

 こうした傾向があると、たいていのマネジャーが認識しているよりもはるかに頻繁に、アイデアや懸念、質問の自由な交換が日常的に妨げられる。この状況を打開するには、集中力と努力が必要だ。それは人が新たな信念や行動を身につけるプロセスであり、簡単でも自然なことでもない。

 それが不可能だと言っているのではない。それどころか、それが可能であることを裏付けるエビデンスを筆者らは豊富に得ている。心理的安全性は、不確実性に直面している、あるいはイノベーションを必要としているあらゆるビジネスにおいて、極めて価値のあるものだと考えている。

 しかし、心理的安全性を確保するために必要とされるだけのコミットメントと野心を持って取り組まなければならない。幸いなことに、その努力が報われることを筆者らは知っている。

 ヒューガンデルがリーダーシップと組織開発の責任者を務めていたスウェーデンの銀行大手SEBでは、心理的安全性と対話スキルを構築して戦略的発展を促進させる4カ月間のプログラムに取り組んだ幹部が、次のように語った。

「結果は予想していたよりも早く表れ、より迅速な決定、よりよい決定という形でもたらされた。スピードを上げるために、スピードを落とすのだ。以前からあった戦略的な問題が、社内でも社外のステークホルダーとの間でも比較的早く解決できた」

 なぜ成功したのか。SEBで10年間にわたり、経営陣が率直さと脆弱性を身につけながら、他者の視点に立つパースペクティブ・テイキング(視点取得)と、戦略的フォーカスを実践できるようにするさまざまな手法を実践してきたヒューガンデルの取り組みをエドモンドソンが学術的に研究した結果、4つの本質的な要素が明らかになった。

 筆者らが経営陣に対して行うアプローチは、率直な対話が成功の一因となるあらゆるチームに適用できる。決断の内容は異なるかもしれないが、実際の仕事の中でスキルを開発するというアプローチは同じだ。