
航空会社は新型コロナウイルス感染症のパンデミックで大打撃を受けているが、再び需要が戻ってくることは確実だろう。ただし、顧客がフライト体験に支払おうと思う金額には上限があるため、コスト高で利益率の低いビジネスモデルを見直さなければ、コロナ後も厳しい状況が続くことが予想される。筆者らは、付帯サービスに追加料金を請求する「アラカルト・プライシング」ではなく、航空会社特有のロイヤルティプログラムを活用し、余分なサービスを利用しない顧客にマイルを付与するような「アラカルト・オプション」を提供することで、顧客体験を損なわずにコスト削減を実現できると指摘する。
慢性的な赤字でも、根強い顧客がいる業界がある。たとえば、オンラインの配車サービスがそうだ。一方で、収益性が高くても、評価はそれほど高くない業界もある。たばこ会社を思い浮かべたかもしれない。そして、利益はほとんどなく、顧客からひどく嫌われている業界もある。航空会社は間違いなく、その一つだろう。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが航空需要に大打撃を与えたことは明らかだが、利益の低迷はパンデミックの前から始まっていた。航空会社の経済的利益(投下資本に対するリターンから資本コストを差し引いたもの)の平均は、2015年までの20年間はマイナスで、わずかにプラスに転じた後、2019年には再び赤字となった。
顧客体験もあまり芳しくない。航空会社は米国で最も嫌われている業界5つのうちの1つで、20年以上前に導入されたACSI(米国顧客満足度指数)による企業ランキングでは下位20%に位置する。
とはいえ、航空業界にとって喜ばしいことに、すべてが悲観的で絶望的というわけでもない。航空需要は今後数年で、再び成長軌道に乗ると見られる。
航空会社は需要の回復に備えるために、ロイヤルティプログラムという特有の資産を活用できる。ロイヤルティプログラムは、貸借対照表と損益計算書の双方にとって価値がある。前者については、融資プログラムの担保として利用できる。後者は、マイレージを「アラカルト・オプション」として活用すれば、顧客を不快にせずに、航空会社が管理できるコストの削減につながる。
アラカルト・オプションとは何か
従来のアラカルト・プライシングでは、航空会社が収益を増やすために、さまざまな付帯サービスの追加料金を乗客に請求する。スピリット航空のように、これらの料金が収益の約50%を占める会社もある。
ただし、こうした慣行の効果は限定的だ。行動経済学の研究によると、人は基本的に、ある利益を得るよりも同等の損失を回避しようとする。そして、以前は無料だったものに対価を払わなければならない場合、それを個人的な損失と解釈するからだ。
そのせいだろう。トイレの利用を有料化する計画を中止せざるを得なくなったライアンエアーのように、アラカルト・プライシングは一部の航空会社で世間の反発を招いている。
顧客がフライト体験全体に支払おうと思う金額には上限があり、追加料金を請求しない他の航空会社に乗り換える人もいるだろう。空は無限に広がっているが、消費者需要には限界がある。
一方、アラカルト・オプションは、罰金を徴収するのではなく報償を提供するという考え方に基づいているので、航空会社がコストを管理する方法としてより好ましい。
まず、規模が大きく変動しやすいコストの構成要素のうち、他社が無料で提供しているサービスをオプションの対象とする。たとえば、他社ラウンジの利用やレイトチェックインの窓口などだ。そして、コストのかかるサービスを利用しないという選択肢を顧客に提供し、選択した人にはよりコストのかからないもの、つまりマイレージで報償を与える。
マイレージは顧客の知覚価値は高いが(映画『マイレージ、マイライフ』を見た人はわかるだろう)、実際の価値は1マイルあたり約1.3セントだ。航空会社にとっては非常に低コストで、1マイルあたり推定0.001ドル以下から高くても0.01ドル程度にすぎない。