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政府だけでなく、世界中の企業や投資家がビジネスのサステナビリティ(持続可能性)向上を目指して、さまざまな取り組みを実施している。ただし、グリーン経済の実現という壮大な目標を達成するためには、解決すべき問題がある。再生プラスチックや電気自動車の製造など、何をするにも資源が必要だが、それらが大幅に不足しているのだ。筆者らは、企業が資源不足の解消に挑むことは、よりよい未来に貢献するだけでなく、自社の競争力を高めるという。


 近年、サステナビリティ(持続可能性)をめぐる競争が活発だ。世界中の企業、投資家、政府が、みずからの行動の環境と社会に対する悪影響を減らすことを目指して、野心的な約束をしている。

 しかし、そこには一つ問題がある。新しいソリューションが普及すると、そのために必要な資源やインフラや人材がどうしても不足するのだ。

 積極的な投資とイノベーションにより、それらサステナビリティ関連の資源の供給量は増えていくが、多くの分野では需要の急増に供給が追いつかなくなる可能性が高い。その結果、資源の争奪戦が激化し、それを調達するためのコストが上昇してしまう。

 そうなれば、世界はサステナビリティ向上を目指す取り組みに牽引された資源不足に陥り、新たなリスクとチャンスが生まれるだろう。それに伴い、向こう10年の間に、多くの産業で競争のダイナミクスが大きく変わる可能性がある。

 たとえば、カーボンクレジットもそうだ。多くの企業は、自社の温室効果ガス排出を埋め合わせるための当座の暫定的手段、あるいは長期の主要な戦略として、カーボンクレジットに頼っている。しかし、ボストン コンサルティング グループでは、今後10年の間にカーボンクレジットの入手が極めて難しくなると予想している。

 筆者らの分析によれば、2030年の時点で1年間に市場に供給されるカーボンクレジットは、控え目に予測しても、需要に対し二酸化炭素換算で3億メトリックトンの不足に陥る。加えて、多くの企業が現在と過去の温室効果ガス排出を相殺するためにカーボンクレジットを購入しようとする結果、満たされない需要が年々積み上がり、市場の逼迫にますます拍車がかかると予想できる。

 カーボンクレジットだけではない。ほかにもいくつかの分野で、サステナビリティ関連の資源不足がすでに差し迫っている。

・再生プラスチック:ボストン コンサルティング グループの予測によれば、2025年の時点で再生PET(rPET)の年間需要の約45%が満たされない見通しだ。この点は、商品包装におけるrPETの使用率に関する野心的な目標を設定している日用消費財企業にとって、とりわけ深刻な問題だ。

・バッテリーの原材料:ケアン・エナジー・リサーチ・アドバイザーズによれば、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛などの資源の現在の供給量は、2030年のバッテリー需要を満たすために必要な量の3分の1にも満たない。これは、電気自動車や蓄電システムを製造する企業にとって大きなリスクになる。

・グリーン水素:グリーン水素は、鉄鋼、セメント、化学・石油精製、大規模船舶運送などの産業で脱炭素化を推し進める手段として、期待を集めている。業界の予測によると、グリーン水素の需要を満たすためには、向こう30年で生産量を100~200倍に増やす必要がありそうだ。しかし、これほどのペースで供給を増やすのは容易でないだろう。必要な機器の製造、工場設備の原材料(電解槽の陰極に用いるプラチナなど)の調達、生産に用いる再生可能エネルギーの確保にボトルネックが生じる可能性があるからだ。

・サステナブルコットン:大手ファッションブランドの大多数は、2025年末までに、自社製品で用いる綿をサステナブルコットンに100%転換することを約束している。しかし2018年の段階で、世界で栽培されている綿の21%しか持続可能性のある形で栽培されていない。また、業界の専門家によれば、サステナブルコットンの供給量が劇的に増えて需要を満たせるとは考えにくい。資金力の問題から、小規模農家が持続可能性のある栽培方法を実践することが難しいなどが障害になる。

 先見の明がある企業はすでに、サステナビリティ向上を目指す取り組みが原因の資源不足が当然になる前に、資源を確保しようと動いている。たとえば、アップル、テスラ、フォルクスワーゲンは、資源生産者と長期の契約を結ぶことで、将来にわたり重要な資源を確保している。

 再生プラスチックの不足に対処するために手を打っている企業もある。ネスレとユニリーバは、再生プラスチックのバリューチェーンに関わる企業に投資し、支援を行うプライベートエクイティ・ファンドに、それぞれ3000万ドルと1500万ドルを投資している

 ペプシコとコカ・コーラは、プラスチック代替製品の研究開発、消費者教育、リサイクルのインフラ整備に多額の投資を行っている。rPET不足に対処することが狙いだ。

 企業は、重要なボトルネックを前もって割り出しておくことで、資源不足による弊害を和らげ、むしろその状況を自社の強みに転換するために必要な措置を取ることができる。