
第4回は、まずディスカウントキャッシュフロー(DCF)法による企業価値評価の基本を押さえたうえで、理論株価の算出や、企業価値評価に「正解がある」と考えてしまう誤解などについて解説する。次に、DCF法によって算出した企業価値の水準をチェックする際によく用いられるマルチプル法の基本に触れ、日本企業の公表数値を用いたケーススタディをもとに、DCF法とマルチプル法を実際にどのように活用していけばよいのかについて解説する。
企業価値の算出
企業価値とは、企業が生み出すフリーキャッシュフローの現時点での価値(現在価値と呼ばれる)の総和である。企業価値を具体的に算出する際は、(1)将来のフリーキャッシュフローの予測、(2)継続価値(CV: Continuing Value)の算出、(3)加重平均資本コスト(WACC)の算出、(4)企業価値の算出の順に行う(図表4-1「企業価値のディスカウントキャッシュフロー(DCF)法による算出」を参照)。
図表4-1 企業価値のディスカウントキャッシュフロー(DCF)法による算出
フリーキャッシュフローを加重平均資本コストで現時点の価値に割引くことによって企業価値を算出するので、この企業価値評価の手法はディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)と呼ばれる。
フリーキャッシュフローは、将来にわたって永久に予測しきれるものではない。実務においては、一般的に、今後10年間のフリーキャッシュフローについて、過去の実績も踏まえながら、予想損益計算書や予想貸借対照表を作成して予測する。
そして、11年目以降のフリーキャッシュフローは、フリーキャッシュフロー自体を予測するのではなく、企業の継続価値として、11年目のフリーキャッシュフローの予測値とフリーキャッシュフローのその後の一定の成長率を仮定して、永久還元法によって求める(図表4-2「継続価値の算出」、図表4-3「永久還元法の公式」を参照)。
図表4-2 継続価値の算出
図表4-3 永久還元法の公式
ここで、永久還元法におけるフリーキャッシュフローの成長率gは、企業価値を算出する対象である企業における何らかの予想値であったり、経済全体を表す国内総生産(GDP)の成長率であったり、あるいは保守的にゼロ(0%)とすることなどが多いようである。
WACCは、前回も説明した通り、「負債コストRD」と「株主資本コストRE」から求めていく。なお、継続価値を算出する際の割引率は、現在のWACCではなく、将来のインフレ率等を考慮して異なるものを使ってもよい。
これらの予想フリーキャッシュフローおよび継続価値をWACCによって現時点の価値に割り引くことによって、企業価値(EV: Enterprise Value)を算出する(図表4-4「企業価値の算出」を参照)。
図表4-4 企業価値の算出
ここでいう「割引」とは、たとえば10年後の100万円が現時点ではいくらに相当するのかを考えることを指す。現時点でいくらの金額を投資すれば10年後に100万円になるか、つまり、現時点でのいくらの金額について一定の金利による掛け算を10回ほど繰り返して運用していけば10年後の100万円になるのか、ということである。したがって、割引は、この逆の操作として、10年後の100万円について、この一定の金利による割り算を10回ほど繰り返すことで、現時点の価値に割り戻していく作業になる。