
本連載ではこれまで、お金の流れで経営をみる具体的手法として企業価値評価について解説してきた。第5回は、企業価値の源泉となるのが事業の「成長」と「稼ぐ力」である点を理解していく。成長と稼ぐ力という視点は、戦略と企業価値を、キャッシュフローを媒介として結びつけていくものである。
成長とは、事業規模の拡大であり、たとえば売上高の増加である。また稼ぐ力とは、投下資本利益率(ROIC: Return on Invested Capital)で表され、事業への投下資本に対してその事業がどれだけの利益を生んでいるかという水準を表すものである。
将来のフリーキャッシュフローの増加
企業価値が「将来のフリーキャッシュフローを加重平均資本コスト(WACC)で割り引いた現在価値の総和」であることは、前回までで示した。
この企業価値を増加させるためには、以下の2つの方策がある(図表5-1「企業価値の創造」を参照)。
A. 将来のフリーキャッシュフローを増加させる
B. 加重平均資本コスト(WACC)を低下させる
図表5-1 企業価値の創造
このうち、「A. 将来のフリーキャッシュフローの増加」は、企業の「成長」と「稼ぐ力」によって実現できる。すなわち、成長とは事業規模の拡大としての売上高の成長であり、稼ぐ力とは投下資本に対する事業からの利益の水準を示す投下資本利益率(ROIC: Return on Invested Capital)の向上である。
このような将来のフリーキャッシュフローの増加は、人体にたとえると理解しやすい(図表5-2「企業価値の創造を人体にたとえると……」を参照)。すなわち、体が大きくなると同時に(=売上高の成長)、筋肉質になっていけば(=投下資本との比較による利益率の向上)、類まれな人間になれる(=企業価値の創造)ということである。
図表5-2 企業価値の創造を人体にたとえると……
体が大きくなることは大切だか、贅肉ばかりでは仕方なく、筋肉体質でなければ価値を生まない。このことは、後ほど説明していくとおり、企業の稼ぐ力である投下資本利益率(ROIC)が加重平均資本コスト(WACC)を上回っていないと、企業がいくら成長したとしても企業価値が創造されないということを意味している。