
第8回は、「成長」する事業領域を獲得するためにグローバルなメガトレンドに乗る、という全社戦略の発想について、より詳細に解説する。主なメガトレンドとして、サステイナビリティ、エネルギー、食料・栄養・農業、人口増加・都市化、新興国の台頭、新興国における中間層、ヘルスケアという7つを取り上げる。これらのトレンドをうまく捉えて持続的な成長を実現できている企業とそうではない企業に分かれてしまうのは、一体なぜであろうか。
グローバルなメガトレンドとは何か
成長する事業領域は、今後数年間という短期ではなく中長期にわたって成長が持続し、十分なキャッシュフローを生んでいくものでなくてはならない。そのようなものとして、いわゆるグローバルなメガトレンドのもとでの課題を解決していく事業領域がある。
グローバルなメガトレンドとは、社会的または経済的な大きな潮流である。一例を挙げれば、世界の人口が2050年には100億人という大台に向かって増加していく中での都市化の進行、新興国における中間層の拡大、食料・栄養・農業への需要の増加、世界的に高齢化が進む中での製薬・ヘルスケアへの需要の増加、そして、気候変動の基での脱炭素化をはじめとするサステイナビリティの必要などである(図表8-1「グローバルなメガトレンドの例」を参照)。
図表8-1 グローバルなメガトレンドの例
グローバルなメガトレンドの基では、それらにまつわる課題の解決を通じて事業領域が生まれる。そのような事業領域へ進出できれば、持続的な成長が期待でき、十分なキャッシュフローを生んでいくことができる。
たとえば、アメリカ合衆国の3MはもともとMinnesota Mining & Manufacturingというミネソタ州の鉱山会社であった。鉱山業がエネルギー革命によって廃れていく中で、先進国における中間層の台頭による大量消費社会の到来というメガトレンドに乗って化学事業に進出した。そして、消費者の成熟によって化学事業がコモディティ化する中で、スペシャリティ化学事業、それから消費者に近い製品事業へと進出し、いまでは「ポストイット」という付箋などの製品でなじみ深いイノベーション企業として成長を続けている。
また、オランダのDSMも、3Mと類似の成長の軌跡をたどっている。もとはDutch State Minesという鉱山会社であったが、その後は先進国における中間層の台頭による大量消費社会の到来において化学事業に進出し、現在は人口増加や高齢化というグローバルなメガトレンドを捉えて、栄養事業(ニュートリション事業)によって成長を継続している。
将来に目を向けると、図表4-1におけるグローバルなメガトレンドの基では、たとえば次のような事業領域が考えられる。
(1)サステイナビリティ:脱炭素化を進める技術・素材・製品・サービス、カーボンリサイクル、電気自動車などのモビリティ、水マネジメント、廃棄物マネジメント、生物多様性マネジメント、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン、教育など
(2)エネルギー:再生可能エネルギー、水素、アンモニア、分散電源、送配電、蓄電池、エネルギーマネジメントなど
(3)食料・栄養・農業:食料サプライチェーン、食品廃棄削減、人工肉等の代替食品、ビタミン、種子・肥料・農薬、スマート農業など
(4)人口増加・都市化:都市インフラ、都市交通、上下水道、熱供給、リサイクル、スマートシティなど
(5)新興国の台頭:新興国市場への生産市場あるいは消費市場としての参入、新興国での人材育成と登用、新興国発のリバースイノベーションなど
(6)新興国における中間層:食品、衣料品、日用品、レジャー・娯楽、通信、教育、健康・医療サービスなど
(7)ヘルスケア:抗体医薬、医薬品受託製造、再生医療、医療機器、介護、デジタルヘルスなど