
企業が成長を目指すうえで、自社では持ちえないダントツの強みを手に入れる目的で、あるいは時間を買うという目的で、M&Aを活用できる。またM&Aの経験を通じて、経営者と企業の組織の両方がそれぞれに学びを得て、それを蓄積していくことにより、組織的にスキルの構築を進めることができる。
M&Aと事業売却の活用
グローバルなメガトレンドを捉えて持続的に成長する領域での事業構築を、自社で行うという選択肢ももちろんある。それでも、自社では持ちえないダントツの強みを手に入れる目的で、あるいは時間を買うという目的で、M&Aを活用できる。M&Aを手段として位置づけて、そうした目的の達成のために積極的に活用していくのである。
そのためには、投資銀行などからの持ち込み案件だけに頼らない、プロアクティブなM&Aへの取り組みが必要である。つまり、自社の全社戦略や事業戦略を実行するうえで必要な強みを獲得できるターゲット企業を洗い出したうえで評価し、優先順位をつけていくのである。そして、優先順位が上位のターゲット企業に対して、主体的にM&Aの提案を持ち掛けていく。
また、事業売却も、いわばその事業からの「エグジット(出口)戦略」として行われるべきものである。事業売却については、そもそも、なぜ自社が売却しようと考える事業に買い手がいるのか、という疑問が聞かれる。これは、日本企業が売却しようと検討する事業のほとんどが、まさに不振にあえいでいるためだろう。
本来、売却対象事業というのは、自社の全社戦略から外れただけであって、業績が不振であるか否かだけによるものではない。したがって、こうした事業売却は、不振ゆえの撤退ではなく、エグジット(自社の全社戦略から外れたことによるその事業からの退出)なのである。そして、その事業の「ベスト・オーナー」を見つけて売却していくということが重要になる。
ベスト・オーナーというのは、買い手の全社戦略や事業戦略においてその事業が重要となり、その現行の事業と戦略的にシナジーがある相手である。最近では、2020年に公表された日立製作所による海外白物家電事業のトルコ家電大手アルチェリクへの売却が当てはまるだろう。これは、新興国市場に足場を構えつつ、技術力や製品ラインアップを求めているベスト・オーナーへの売却とみえる。