
今回は、セルフ・デューデリジェンスという、自社の経営についての自己検診の考え方について解説していく。業界構造、競争環境、自社の状況が絶えず変化を続ける中で、このままの成り行きでは自社の事業や企業価値がどうなるか。自社が目指す姿とその成り行きの姿とのギャップはどれだけあるのか。そのギャップを埋めるための経営改革として何に取り組めばよいのか。成長と稼ぐ力を軸とする戦略による事業改革、あるいは財務改革をどのように進めていくべきなのか。セルフ・デューデリジェンスは、これらを明らかにするための方法論である。
自己検診としてのセルフ・デューデリジェンス
持続的な成長を実現し、かつ稼ぐ力を高めていくために、企業の経営者が日頃から心掛けておきたいこととして、「セルフ・デューデリジェンス(Self due diligence)」がある。
デューデリジェンスというと、M&Aにおけるターゲット企業の内容やリスクの精査を思い浮かべるだろう。M&Aにおけるターゲット企業のデューデリジェンスには、財務諸表や税務処理などに誤りや不正などがないかを検証する「経理・財務・税務デューデリジェンス」、コンプライアンス違反、訴訟、賠償責任などを抱えていないかを検証する「法務デューデリジェンス」、事業の競争力や収益力などを検証する「ビジネス・デューデリジェンス」、土壌汚染や大気汚染などを行っていないかを検証する「環境デューデリジェンス」などがある(図表14-1「M&Aにおけるデューデリジェンス」を参照)。
図表14-1 M&Aにおけるデューデリジェンス
ここで注目したいのは、ビジネス・デューデリジェンスである。このビジネス・デューデリジェンスとしては、実際のM&Aディールにおいても、日本企業では自社の事業部などがターゲット企業の事業内容を簡易に調査するにとどまっていることが多い。そのため、日本企業においては、ビジネス・デューデリジェンスの内容と真価が、いまだ十分に認識されているとは言い難い。