Illustration by Monika Jurczyk

社内公募で優秀な従業員が当該のポストを埋めてくれるのは、組織にとって利点が多い。組織の勝手を知っているために即戦力となり、外部採用にかかるコストも圧縮できる。だが、社会公募をかければ、社内に「不採用者」が生じることは避けられない。そうなればネガティブな感情が起きるだけでなく、自分のキャリアの未来が描けなくなり、実際に会社を辞めてしまう可能性が高まるという。しかし、採用プロセスの2つの側面に注力することで、組織的に彼らの離脱を防ぎ、社内に留めることができる。


 適材を探している採用担当マネジャーにとって、社内にいる優秀な候補者の履歴書が手元に届くことほど、喜ばしい経験はないだろう。

 空席をすぐに埋めることができるうえ、社内の人材であれば、組織もその独特なやり方もわかっているため、手取り足取り指導しなくても即戦力になる。社外候補者を惹きつけるために一般的に必要とされる報酬の上乗せも、ほとんどの場合は不要だ。

 さらに付け加えれば、社内候補者を採用することは、他の従業員に対して組織の中に未来があるというシグナルを出すことになり、キャリア向上のために転職を考えている従業員が社内で新たな仕事を探す可能性が高まる。

 このような利点があることから、企業は従業員が社内公募の情報を得て、新たなポジションに応募しやすくするための取り組みを拡大している。

 社内によりオープンな人材市場をつくれば、採用担当マネジャーが完璧な社内候補者を見つける確率は間違いなく上がる。しかし一方で、不採用になった従業員に対しては、他の人がそのポジションに就いたと伝える必要も増える。

 社内公募のパターンに関する良質なデータを入手するのは難しいが、最近の推定では、社内公募1件あたり平均で10人が社内から応募している。この数字は、筆者らが20を超える大手企業のタレントアクイジョン(人材獲得)担当リーダーとの対話を通じて確認したものだ。つまり、求人1件につき従業員9人が、もし外部から採用する結果になった場合には10人が「不採用」と告げられる。

 不採用の知らせに、従業員はどう反応するだろうか。少なくとも短期的には、うまく対応できていない。当然のことながら、不採用を喜ぶ人など誰もいないし、いま働いている会社から「不採用」と告げられるとよりつらく感じることも多い。研究によれば、社内応募で不採用になった従業員の職務満足度は下がり、組織に対するコミットメントも低くなる

 さらに不採用になることは、そのポジションを「勝ち取った」従業員をうらやむ感情が生じるおそれがあり、会社から物を盗むなど職場で非生産的な行動に出ることもある。ただし、不採用になっても数カ月間その組織に留まれば、そのようなネガティブな態度は薄れていく傾向にある。

 とはいえ、退職を決断する従業員は少なくない。実際、社内公募で不採用になった従業員が組織を去る確率は、社内公募で採用された従業員や応募しなかった従業員に比べて2倍近く高いことが、研究からわかっている。生産性の損失は、辞めた従業員の後任を探すコストも含めて考えると、かなりのものになることが多い。

 社内公募で不採用になった従業員が会社を辞める確率を、組織的に減らす方法はないかと、筆者らは考えた。そして企業にとって幸いなことに、不採用にすることは避けられなくても、従業員の退職は避けられることが、筆者らの研究から明らかになった。