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在宅勤務を強制されたことで働く親たちは疲弊し、特に母親の負担はいっきに増加した。ただし、悪いことばかりではない。父親が家にいるようになり、家事や育児に積極的に関与するようになったからだ。こうした変化は、本人だけでなく、家庭にも、組織にもさまざまな利益をもたらす。本稿では、オフィスが再開されてからもこの状況を維持するために、父親が何をすべきかを示す。


 ベビービョルンの抱っこひもでくるまれた息子が胸の上で眠っているのを感じながら、新規顧客に売り込みをする。7歳の娘と一緒にダンスをして、毎週のパートナーミーティングに臨むママを応援する。夜に家にいて、絵本の登場人物に合わせて声を変えながら双子に読み聞かせをする──。

 パンデミックのさまざまな影響で家庭は明らかに疲弊しているが、リモートワークは多くの家庭によい変化をもたらした。父親が家にいたのだ。

 筆者らはペパーダイン大学グラジアディオ・ビジネススクールとハーバード・ケネディスクールの研究チームとともに、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下における働く父親に関する継続中の縦断調査の一環として、全米の都市部と郊外に住む父親数十人にインタビューを行った。そこで絶えず耳にしたのは、オフィスが再開された後も、子どもたちの生活における積極的な役割を維持したいという彼らの声だ。

 それができれば、父親自身にも、家族にも、組織にもメリットをもたらす可能性がある。プロジェクトの始めに、妻あるいはともに子育てをしている人たちにインタビューをすると、調査対象の男性が実際に有意義な方法で関与していたと話した。

 ワーキングマザーがパンデミックの間に困難に直面し、仕事がなくなったり、パートナーの協力が得られなかったり、子どもの学校がバーチャルやハイブリッド形式になったことで監督が必要になったりして、記録的な数の人が職場を去ったことは頻繁に報じられている。仕事を継続している父親が日常的に子どもの世話に関わる機会を得たことはあまり注目されていないが、これは大きな変化だ。

 日常的に子どもの世話をすることは、非常に重要だ。通常は女性が精神的ウェルビーイングや収入、キャリアアップを犠牲にして担っている家事を、父親は1年の間に少しずつ行うからだ。

 加えて、同じ行動でも男性と女性では基準が異なる「判断基準の移行」という現象もある。父親はあまり期待されていないため、家庭でほぼどんなことをしても称賛される一方、母親は何もしていないと、不当な扱いを受けるリスクがあるのだ。

 実際、歴史的に見ても、異性関係において父親はあまり家事をやらない。また、男性は職場では、いつでも対応できて、仕事に完全に専念しているように見せる。これは女性にとってだけでなく、男性にとっても問題だ。

 具体的に言えば、男性は過労や、家族との関わりが不足していると感じる可能性がある。多くの男性は仕事が好きだが、長時間の仕事は精神的にも肉体的にも負担となり、配偶者や子どもとのより充実した時間を求めることもある。

 子育てをすることには多くの利点がある。父親が幼い子どもの育児に携わると、子どもの認知能力や社会性の発達が促進されるという研究結果もある。また、父親とそのパートナーとの関係が双方にとってより良好で、パートナーの性的関係の満足度も高い

 職場でもよい面がある。家族との関わりが強い父親は、仕事を辞めることを考える傾向が低く、職務満足度が高いのだ。

 ノースイースタン大学ダモア・マッキム・スクール・オブ・ビジネス准教授のジェイミー・ラッジらによる研究では、仕事が家庭生活を豊かにするだけでなく、家庭生活が仕事を豊かにすると父親たちは回答している。たとえば、仕事を通じてさまざまな視点を理解できるようになり、そのスキルを家庭に取り入れるようになったことに加え、父親になったことで同じ親である同僚とより深い関係を築くことができるようになったという。

 筆者らの調査では、パンデミックの間、主夫や子育てを主にする立場になった男性はほとんどいなかった。しかし、小さなタスクに見えるものでも「ふだんから」家事をするようになることは、特に日常的に行っている場合は有意義だった。

 配偶者たちは、結婚生活がより幸せになった、賃金労働をする余地ができた、家族で一緒に過ごす時間をありがたく感じたと話した。元配偶者からは、パンデミックの間の在宅勤務のおかげで、より協力的に子育てができたという声もあった。

 父親の中には、パンデミック前は毎日子どもと「会う」こともなく、子どもが起きる前に仕事に向かい、子どもが寝た後に帰宅していた人もいた。いまとなっては、そうした生活に戻ることは考えられない。