米国の経営者団体ビジネスラウンドテーブル(BR)が2年前に宣言した、ステークホルダー重視の経営。それは「きれいごとではないか」「日本企業の三方よし経営と何が違うのか」……こうした疑問に答えるべく、経営にいま何が求められているのか、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2021年10月で特集しました。
パーパス経営の実践を訴えるのが、1番目の論文です。家電量販店大手ベスト・バイの前CEOである筆者は、「何のための、誰のためのビジネスか」と問い、従業員と顧客と社会、そして地球の健やかさの意義を論じます。
個人と企業のパーパスの連携を説き、その実現にはマネジャーなど人々のリーダーシップが必要と訴えます。自身がそれをいかに実践し、従業員がどう変わったかを具体的に示します。経済価値か社会価値の択一でなく、両方を高める経営こそが持続可能な社会と企業を実現すると言います。実績がある経営者の言説は説得力があり、感動します。
実は、BRの多くの企業が2年前のステークホルダー重視の約束を反故にしていた、という糾明で始まるのが第2論文です。コロナ禍で従業員を解雇するとともに、株主還元を高めた企業が多かったというのです。
要因は経営の意思決定における偏った権力構造にあり、それが社会の経済格差や自然生態系の崩壊を招いていると分析します。改革策として、欧州の事例をもとに、取締役会に従業員など他のステークホルダーが参画する"権力の分有"を提案します。
その欧州では、パーパス経営の旗手で、ステークホルダー資本主義への変革を標榜していたダノンのCEOが今年(2021年)3月、業績不振を理由に株主からの圧力で解任されました。この一例から、持続的な変革の難しさを示すのは第3論文です。
そこで同論文は、ステークホルダーがせめぎ合う中での変革は、一人のリーダーの力に依存するのではなく、その流れを制度や文化などで企業組織に根付かせる必要があるとして、そのための4つの原則を提示します。
大企業以上に株主や投資家の影響力が大きいのが、スタートアップです。一般に起業家は市場の要請から成長重視に走りがち、という現状を問題視するのが第4論文です。筆者は、成長志向がパーパス追求と対立するというのは見当違いだとして、スタートアップにこそパーパスが重要な力になると主張します。
パーパスは、起業家の野心を膨らませ、ステークホルダーを引き付け、成功に向かってチームを団結させるからです。パーパスと成長の両方の実現に取り組めば、理想とビジネスは両立しやすくなると論じます。
5番目の論文は、ステークホルダーとして「気候」を論じます。社会の持続可能性において最大の課題は気候変動ですが、筆者は企業の対応策が不十分であることを指摘します。
その実効性向上には社会的運動が不可欠で、経済格差に苦しむ労働者階層の支持が必要と訴えます。気候と公平性の問題をリンクさせ、ステークホルダーが結集して企業活動を変革していく方法論を唱えます。
こうした米国のステークホルダー資本主義論に対して、日本企業はどうすべきでしょうか。ステークホルダー重視の経営を先取りし、成果を出している味の素の西井孝明社長に、その変革過程と経営哲学をインタビューしたのが6番目です。
三方よし経営とは何が異なるのか。代表的な日本の大企業の経営論は、経営者やビジネスパーソンにとって、大いに参考になると考えます。