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これまで、暗号資産の話題の中心は相場の騰落に関連するものだった。しかし、ブロックチェーンを土台とする暗号資産のエコシステムは、投機に留まらない新たな経済を生み出そうとしている。すなわち、DeFi(分散型金融)に代表される分散型の経済だ。その運営ルールは誰が決めるのだろうか。それはガバナンストークンの保有者である。本稿では、暗号資産のエコシステムを形づくる2つの重要なコンセプトを明らかにしたうえで、ガバナンストークンを保有することの意義を示す。


 ジョーク通貨としてリリースされた暗号資産の「ドージコイン」は、投資家たちをそれこそ一夜にして億万長者に変えた。オンラインでネコのキャラクターを取引できるデジタル・トレーディングカードの「クリプトキティーズ」は、10万ドルを超す高額で売買されたケースもある。プリングルズは、NFT(非代替性トークン)としてのみ存在し、実際に食べることのできないフレーバーを発売し、普通のポテトチップスを上回る売上げを記録した。

 これらはすべてブロックチェーンを土台にしたプロジェクトである。いずれも、一見するとばかげたものに思えるかもしれない。一般大衆は当惑するほかなく、金融専門家はくだらないと一蹴するだろう。時々利益を生むけれど、所詮はパロディや悪ふざけの域を出ない、というわけだ。

 しかし、内輪のジョークや業界用語やふざけた名前に惑わされずに本質に目を向けると、暗号資産の世界で新しい重要な動きが生まれつつあることに気づくだろう。ディベロッパーと投資家のコミュニティが堅牢で持続可能なインフラを築き、その土台の上にまったく新しいタイプの経済をつくり出そうとしているのだ。

 新しいタイプの経済とは、分散型の経済のことである。そして、そうした分散型経済の一部を構成するのが、オープンで分散型の金融システム――DeFi(分散型金融)と呼ばれる――だ。

 DeFiはまだ新しい分野で、(時に混乱を伴いつつも)生産的な形で進化を遂げつつある。いま行われている実験的な取り組みはあまりに多く、次にどのようなトレンドが形づくられるかを正確に予測することは難しい。それでも市場が拡大していることを考えると、ブロックチェーンというイノベーションの根幹部分(とそれを可能にする暗号技術およびソフトウェアのイノベーション)は、このまま続くと言えそうだ。

 これまで、暗号資産を取り巻く話題は相場の騰落が中心だった。しかし、このテクノロジーはもっと大きな可能性を秘めている。暗号資産のテクノロジーにより実現しつつある分散化と自動化が持つ意味は極めて大きい。価値の創造と移転を行うための新しい方法が生まれるからだ。

 人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ロボティクス、暗号資産が一体になった時、いくつものイノベーションの相乗効果により、自動オペレーション、すなわち独力で動くビジネスプロセスが実現する可能性がある。

 この新しいシステムのルールが、いま書かれようとしている。そのルールづくりの担い手になるのは多くの場合、いわゆる「ガバナンストークン」を保有しているユーザーたちだ。ガバナンストークンの保有者には、システムの将来のあり方を決める際の発言権が与えられる。

 こうしたトークンはこれまでしばしば軽んじられてきたが、暗号資産の世界で活動し、先見の明を持つ企業と個人は、未来への発言権を持てることに大きな価値を見出している。