データサプライチェーン・マネジメントのステップ

 物理的なサプライチェーンにおけるプロセス管理と品質管理のステップを部分的に踏襲すれば、データサプライチェーンを社内で構築することが可能だ。

1. 管理責任を定める。ステップ1aとして、最高データ責任者やプロダクトマネジャーは、自チームの中から「データサプライチェーン担当マネジャー」を指名する。その人物が取り組みを調整し、サプライチェーン全体の各部門(外部のデータ供給源も含む)から「責任を持つ担当者」を集める。

 ステップ1bとして、データの共有と所有権にまつわる問題を真正面から取り上げる。筆者らの経験では、ほかのメンバーたちを前にしてデータの共有に強い反対姿勢を示すマネジャーはほとんどいないため、問題の大部分は解消される。

2. データプロダクトの生成と維持に必要なデータと、それに伴うコスト、時間、品質要件を特定して記録する。

3. サプライチェーンを描いてみる。データの生成ポイントや供給源と、データプロダクトに用いるためにデータの移動、補強、分析を行うステップを示したフローチャートを作成する。

4. 測定指標を定義・設定する。通常は、要件が満たされているかどうかを測る指標を導入することが狙いとなる。まずはデータの正確性と、データの生成からデータプロダクトへの取り込みまでの経過時間から始めるとよい。各データプロダクトのサプライチェーンによって測定指標は異なる。

5. プロセスの管理を確立し、要件に合致しているかを検証する。ステップ4の測定指標を用いてプロセスを管理し、ステップ2での要件がどれほど満たされているかを判断し、要件との差異を明らかにする。

6. 全体およびデータプロダクト個々のサプライチェーンを点検し、必要な改善点を特定する。ステップ5で明らかになった差異が、ステップ3のフローチャートのどこで発生したかを見極める。

7. 改善を行い、監視を継続する。ステップ6で見つかった差異の根本原因を特定し、除去する。必要に応じて前のステップに戻る。入力データとデータプロダクトの両方を継続的に監視し、プロダクトの改善を目指し、そのために必要な新しいデータや、よりよいデータ供給源を探す。

8. データ供給源を「認定」する。企業は今後も外部のデータサプライヤーを増やしていくはずであり、高品質のデータを常に提供してくれるサプライヤーを見定めることは有益だ。データ品質プログラムにおける監査者は、高品質データのサプライヤーを「認定」する手段を提供し、そうでないサプライヤーについては弱点を特定する。

 米銀行の中で資産規模トップ20に入るキーバンクは、データマネジメント施策を構築するために幅広いデータサプライチェーンのコンセプトを採り入れている。データマネジメントのプロセスを「獲得/整理/消費」の領域に分け、各領域で効率と効果の向上を目指している。

 先頃にはデータストレージとアナリティクスの大部分をクラウドに移行し、サプライチェーン全体にわたって柔軟性とスピードの大幅な向上を達成した。消費活動としては、これまで典型系なビジネス・インテリジェンス能力に重点を置いてきたが、いまでは優れたデータサイエンス機能も有している。

 上記の取り組みに伴い必要となったのは、データの仮想化が進むようサプライチェーンを変えること、そしてさまざまなデータマートを横断し、外部データも取り入れる形でデータビューを構築する能力だ。

 キーバンクは自社のデータサプライチェーンを活用し、データに大きく依存する新たな金融商品を迅速に開発できるようになった。たとえば、同行は米国で給与保護プログラム(PPP)ローンの融資を最も多く提供する一社となり、最近では国内で医師を支援するためのデジタル銀行も立ち上げた。

 同行の最高データ責任者であるマイク・オンダーズは、実質的にデータサプライチェーン担当マネジャーとなっている。彼とスタッフは、必要とされるさまざまなデータプロダクトを自社のデータサプライチェーンが供給できているか審査している。

 筆者らはすべての企業に対し、極めて重要なデータサプライチェーンを積極的に管理するよう強く推奨したい。データという資産は事業にとって、ほかのあらゆる資産と同等に重要であり、データプロダクトは有形製品に匹敵するほど重要性を増している。物理的サプライチェーンを何十年にもわたり向上させてきた考え方は、データに対しても同じように有益であることが明らかになっているのだ。


"Your Data Supply Chains Are Probably a Mess. Here's How to Fix Them.," HBR.org, June 24, 2021.