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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、私たちは、変化に迅速に適応することの重要性を痛感した。ニューノーマルを迎えても社会が変化する速度が衰えることはなく、むしろ加速することが予想される。そのような時代に、いかなるリーダーシップを発揮すべきなのだろうか。筆者らは、チームの意識を「生存」ではなく「成長」に向かわせることが重要だという。


 最近、ともに仕事をしているCEOの一人が、こんなことを言った。「新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、私たちはそれまでよりも優れたやり方を新たに見出す必要に迫られました。コロナ後に、そうした新しいやり方をやめてしまうのはもったいないと思います。では、私たちはどうすればよいのでしょうか」

 同様のことを述べている人は多い。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、新しい状況に適応する必要性を誰もが痛感した。しかし、その一方で、いまの状況は特異なものであり、それを耐え抜けば、やがて「ニューノーマル」が訪れて、変化と不確実性と混乱が少ない時代になると、暗黙に考えている人も多い。

 けれども、あらゆる要素に照らして考えて、変動性複雑性と急激な変化に拍車が掛かるのがニューノーマルだと考えたほうがよさそうだ。そうした時代に対応するためには、社内で変革を推し進めるための新しい方法が必要とされる。従業員が積極的に、インサイトの獲得、ソリューションの創出、リーダーシップの実践に取り組むよう促すための新たな方法が求められているのだ。

 筆者らは、変化に関する新しい科学的研究を軸に、企業のアジリティと適応力を高めるうえで有用なフレームワークを編み出そうとしている。

 その土台を成すのは、3つの研究の流れだ。1つは、現代型組織の構造と限界(この種の組織では、マネジャーを中心に据えることで安定性と効率性の確保を目指している)に関する研究。もう1つは、リーダーシップと組織変革に関する研究。そして、もう1つは「人間の性質」、とりわけ変革に抵抗する性質、あるいは変革を実践する性質に関する研究である。

「生存」と「成長」の違い

 人間は、さまざまな変化に抵抗を示す。しかし、その半面、人間は好奇心に突き動かされて行動する動物でもあり、目新しいものを追求する性質が備わっていることも事実だ。変化を受け入れるか、それとも変化に抵抗するかは、人間の脳と身体に組み込まれた遺伝的要因によって決まる。

 進化を通じて、人間は2つのチャネル(回路)から成るシステムを持つようになった。不確実な状況で人間が示す反応の多くは、このシステムが決めている。

「生存チャネル」は、脅威に直面した時に活性化され、それに伴い、恐怖、不安、ストレスの感情が生まれる。そうした感情が交感神経系を活性化させる。それがうまく機能すれば、その脅威を取り除くために全神経を集中させる状態になる。

 一方、「成長チャネル」は、好ましいチャンスを前にした時に活性化し、興奮、情熱、喜び、熱意の感情を伴う。この種の感情は副交感神経系を活性化させる引き金を引く。そうすると思考の幅が広がり、新しい形でコラボレーションを実践できるようになる。

 自社で素早く賢明な変化を起こすためには、社内の人々の生存チャネルが過熱することを防ぐ一方で、成長チャネルを活性化させなくてはならない。社内で十分に多くの人がそうした状態になれば、イノベーションの推進、新しい状況への適応、リーダーシップの実践が活発になると期待できる。

 最近の組織変革の実例を吟味すると、最も明確に見えてくる教訓は、リーダーシップに関するものだ。それは、社内の多くの人がリーダーシップを発揮することが望ましい、という教訓である。

 今日の変革課題に対処できるのは、肩書としてのリーダーシップではなく、行動としてのリーダーシップだ。組織のあり方を抜本から改めて、自律性、参加意識、リーダーシップを促進できる環境をつくることの必要性は極めて高い。

 生存チャネルのほうが成長チャネルよりも強力で、しかも旧来のマネジメントシステムでは安定性と効率性が重んじられるので、企業などの組織では生存チャネルが過熱し、成長チャネルが十分に活性化されない場合が多い。

 組織が素早く方向転換(ピボット)して変革を実現するためには、リーダーが自分自身と他のメンバーの生存チャネルを鎮静化させ、成長チャネルを活性化できなくてはならない。