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グループで問題を議論すれば、集合知が働き、すぐに解決策を見出せる。あなたもそう思い込んではいないだろうか。たしかに、専門的な意見や関連情報を持ち寄り、さまざまに検討することで、予測の制度を高めることはできる。だが、最終的な判断を下す際は、方向を誤りかねないことが筆者らの研究から明らかになっている。議論を進める中で、誤った少数意見が多数意見に変わったり、不確かで疑いのある過半数ぎりぎりの意見が圧倒的多数に変化したりするというのだ。本稿では、このプロセスについて論じ、マネジャーが罠に陥ることなく、集合知の利益を享受するための3つの戦略を紹介する。


 簡単に答えの出ない問題に直面した時、複数の専門家に相談して個々の意見を聞くのがよいのか、もしくはグループとして討議してもらうのがよいのか。

 集合知の概念に関する研究では、適切に管理すれば、複数のアドバイザーから得た個々の意見の平均値を取るよりも、グループで検討を重ねるほうが、より正確な予測値を導き出せることが示されている。

 しかし、筆者らの最近の研究から、グループによる討議は、たしかに予測の精度を向上させるものの、最終決定に関しては方向を誤りかねないことが示された。

 集合知の力に関するこれまでの研究は、定量的な問題に対する答えを、グループがいかに予測するかに焦点を当ててきた。「この製品を市場に出す準備ができるまでに、どのくらいの時間がかかるか」「このプロジェクトにかかる費用はいくらか」「この採用候補者の評価は何点か」といった問題だ。

 このような問題に関しては、グループで討議するほうが、個人で検討するよりも正確な予測に到達するのが一般的だ。

 しかし、イエスかノーかの決定に関して言えば、グループでの討議は正しい選択を行う確率を下げることを、筆者らは発見した。

 言い換えると、グループでの討議を通じて、より正確な予測値を導き出せたとしても、たとえば「この製品は予定通りにローンチできるか」「予算をオーバーするか」「この採用候補者は会社の基準を満たすか」といった問題に対してイエスかノーかの判断を多数決で決める場合、グループが正しい決定を下す可能性が低くなるのだ。

 これはなぜか。筆者らの研究では、グループでの議論は最初の多数意見を単に増幅させるか、さらにひどい場合には、当初は正しかった投票結果が、正しくない結果に変わってしまうことが明らかになった。グループの定量的な予測値が改善されたとしても、だ。グループでの議論を終わらせた後で投票を行った場合も、これと同じ現象が見られた。

 社会力学(ソーシャルダイナミクス)が働くことにより、議論を通じて定量的予測はより正確になる。しかし、同じ社会力学がしばしば、誤った少数意見を多数意見に変えたり、不確かで疑いの余地がある、過半数をぎりぎり超えた多数意見を圧倒的なコンセンサスへと変えたりするのだ。