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企業変革の重要性は誰もが理解しているが、残念ながら、その挑戦の約80%が失敗に終わっている。変革に成功する企業と、失敗する企業は何が違うのか。筆者らが実施した定量調査を通じて、その違いを決定付ける6つの要素が明らかになった。本稿では、企業変革を成功に導く条件を示したうえで、マイクロソフト、ペイパル、ハーシーがそれらをどのように実践したかを紹介する。


 ビジネスの世界で、企業変革の成功が「見果てぬ夢」だと見なされるようになって久しい。常に追求されてきた目標だが、達成することは容易でない、ということだ。

 ジョン・コッターがその難しさに光を当てたのは、25年以上前のことだった。企業変革の取り組みの70%は失敗する運命にあるというコッターの指摘は、よく知られている。

 コッターの数字は正確なのか。企業変革が成功する条件とは、どのようなものなのか。この問いに対して定量的に答えようとした研究は、驚くほど少ない。そこで、2020年秋、本稿の筆者らが関わる3つの組織――コッパーフィールド・アドバイザリー、インサイダー、レボリューション・インサイツ・グループ(RIG)――が協力して、一部の企業が成功への道筋に乗る要因を明らかにする取り組みに着手した。

 さまざまな企業の財務成績と会社の評判に関するデータをメタ分析した結果、以下のことが判明した。

1. 企業変革は、一般に思われているより難しい:筆者らが分析した企業の中で、企業変革に成功した会社はわずか22%にとどまった。すなわち失敗する確率は、コッターの70%よりさらに高い78%だった。この分析結果は、企業変革がいかに難しいかを裏付ける定量データと言えるだろう。

2. 企業変革の成功と失敗を分ける要因は、従業員との関わり方かもしれない:筆者らの分析によると、企業変革に成功した企業に共通していたのは、従業員重視の取り組みに力を入れていることだった。競合に劣らない水準の給与や医療へのアクセスに加えて、たとえばDEI(多様性・公平性・包摂)関連のプログラムや、女性マネジャーのキャリア支援制度などを整えている。

「企業変革」をどのように定義するか

「企業変革」という言葉は、今日のビジネス界でひときわ多用され、かつとりわけ誤用されている用語かもしれない。筆者らの研究では、企業変革とは何かを定義することから出発する必要があった。

 筆者らはさまざまなグローバル企業の60人の幹部らの意見を参考に、「企業変革」とは、ビジネスのやり方を根本的に変えることにより、経済的・社会的インパクトを生み出すことだと定義した。

 この定義に該当する企業を見出すために、筆者らはいくつかの定量的な指標を選び出した。ある企業が企業変革を成し遂げた、もしくはその最中であることを映し出す指標である。

 その中には、R&D支出の増加、リストラ費用の支出、営業利益率の変動、吸収合併、社名の変更、企業変革に関する発表などが含まれる。350社の企業に関するRIGのデータベースを基に、筆者らは2016~2020年に企業変革を経験した128社のグローバル企業をリストアップした。

 筆者らはまず、このテーマに関する先行研究を調査した。驚いたことに、企業変革について定量的評価を行った研究は1点しか見つからなかった。その研究とは、ボストン コンサルティング グループのマーティン・リーブスらによる2018年のリポートである。

 このリポートでは300以上の企業を対象に、財務指標(具体的には株主総利回り〈TSR〉)に着目した。そして分析の結果、株式市場でのパフォーマンスが悪化している企業にとって、企業変革を成功させることがことのほか難しいと結論づけていた。

 筆者らの研究でも、財務的パフォーマンスに関するデータを収集した(売上高、株価、株式時価総額)。しかしそれだけでなく、成功の基準として企業の評判も加えた。企業の評判が高ければ、企業変革において(株主だけでなく)すべてのステークホルダーの期待に沿えていると見なしたのである。

 評判の要素に関しては、RIG独自のメタ分析による公平性のスコアを指標として用いた。これは、レップトラック、ブランドZ、バロンズ、ハリスのレピュテーション指数、『フォーチュン』誌の「世界で最も尊敬される企業」など、認知度が高く、広く信頼されている評判ランキングを集計して算出したスコアである。

 筆者らは統計分析を行い、財務面と評判面のパフォーマンスに基づき、これらの企業をランク付けした。