
優秀な人材を惹きつけ、組織に定着させるのは常に重要課題だが、とりわけ現在の「大退職時代」(グレート・レジグネーション)にあっては、従業員の定着率向上にデータドリブンのアプローチが欠かせない。必要なのは、単に退職者数を追いかけるのではなく、離職リスクの高い従業員の特徴や退職理由に関するデータを分析し、独自の介入措置を講じることだ。従業員の離職を防ぐためにデータをどう有効活用すべきか。あらゆる企業に共通する3つのステップを紹介する。
米国労働統計局によると、2021年7月に400万人の米国人が仕事を辞めた。退職者数は4月にピークを迎え、ここ数カ月は異常に高い水準で推移しており、7月末時点での求人数は1090万件という記録的な数字だった。
退職者が大きく増える中、企業はどのようにして人材を維持することができるだろうか。
この驚異的な統計の根本原因に対処するには、まずそれらの理解を深めることから始めなくてはならない。最近の変化を実際に牽引しているのはどのような人々かを明らかにするため、筆者はチームとともに4000社以上の従業員記録900万件以上を詳細に分析した。
このグローバルなデータセットには、さまざまな業界、職務、経験レベルの従業員が含まれている。筆者らが分析を行った結果、カギとなる2つの傾向が明らかになった。
(1)離職率は中堅社員が最も高い
離職率は30~45歳の従業員が最も高く、2020~2021年の間に平均20%以上増加している。一般的に離職率は若年層が最も高いが、筆者らの調査では、過去1年間で20~25歳の従業員の離職率は低下しているのが現状だ。これは経済的な不確実性の高まりと、エントリーレベルの労働者に対する需要の減少が重なったためと考えられる。
興味深いことに、60~70歳の年齢層でも離職率は低下している。これに対して、25~30歳と45歳以上の年齢層の離職率は2020年に比べてわずかに上昇しているが、30~45歳ほど著しい上昇は見られない。
離職者数の増加がミドルレベルの社員によって引き起こされていることには、いくつかの要因が考えられる。
まず、リモートワークへの移行によって、新入社員が対面での研修や指導を受けられないため、経験の少ない人材を雇うのは通常に比べてリスクが高いと企業側が感じている可能性がある。これにより中堅社員の需要が高まり、彼らが新たな職を得るうえで有利な状況になる。
また、ミドルレベルの社員の多くは、パンデミックによって先が見えないことから退職を留まっていた可能性がある。つまり、ここ数カ月の離職率の急上昇は、1年以上抑え込まれていた結果かもしれない。
当然ながら、そうした従業員の多くは、何カ月もにわたる仕事量の増加や雇用凍結、その他のプレッシャーから限界に達し、仕事や人生の目標を見直すきっかけになった可能性もある。
(2)テック業界とヘルスケア業界で退職者が多い
筆者らの分析では、業界ごとに企業の離職率に著しい差異があることも明らかになった。製造業界や金融業界などでは退職者数はわずかに減少しているが、ヘルスケア業界では前年比3.6%増となっており、テック業界では4.5%増だった。
従業員の離職率が高いのは概して、パンデミックの影響で需要が急増し、仕事量の増加やバーンアウト(燃え尽き症候群)につながったと考えられる分野だ。