リテンション向上に不可欠な
データドリブンアプローチ
こうした傾向は、単に退職者の数だけを追求するのではなく、離職リスクの高い従業員の特徴や退職理由、そして離職を防ぐための介入措置を、データに基づいて判断することの重要性を示している。
詳細は組織によって異なるが、従業員のリテンション(定着)率を改善するうえで、すべての企業がデータをより有効活用するための3つのステップがある。
(1)問題を定量化する
離職の根本原因を特定する前に、問題の範囲とそのインパクトの両方を定量化することが欠かせない。まず、以下の計算式で定着率を算出する。
・年間離職者数÷平均総従業員数=離職率
同様の計算式を用いて、離職のうち自発的退職とレイオフ(一時解雇)や解雇の割合を明らかにする。これにより従業員のリテンションにまつわる問題が、実際は何に起因するのかを正確に把握することができる。
次に、退職が主要なビジネス指標に与える影響を特定する。従業員が組織を去ると、残されたチームは重要なスキルセットやリソースを失い、仕事の質や遂行にかかる時間、最終的な収益に至るまで、あらゆる面でネガティブな影響を受ける。
退職によるコストの全体像を把握するには、離職の増加が他の指標の変化と、どのように関連しているかを追跡することが重要だ。
たとえば、筆者が協働したあるトラック運送会社では、全国的なドライバー不足は離職率のわずかな増加につながっただけだと見なされていた。しかし実際には、採用と研修のリソースに何百万ドルものコストを費やす結果を招いていたことがわかった。
問題を数値化することで、リーダーは問題に取り組むために必要な社内の賛同を得ることができ、リテンションのためのどのような介入措置が最も有効かを判断するための情報を得ることができた。
(2)根本原因を特定する
リテンションに関わる問題の範囲を特定したら、次に詳細なデータ分析を行い、従業員が離職する真の要因を突き止める。
離職率を高めているのはどの要因かを、みずから考えよう。報酬、昇進までの期間、昇給の規模、在職期間、成績、研修の機会などの指標を調べることで、組織内の傾向や盲点を特定することができる。
また、勤務地や職務、その他のデモグラフィック属性によって従業員をセグメント化することで、従業員のカテゴリーごとに仕事体験や定着率がどう異なるかをより深く理解できるだろう。
この分析により、どのような従業員が最も離職リスクが高いかだけでなく、対象を絞った介入措置により、そのうちのどの従業員を引き留められる可能性が高いかを把握することができる。
たとえば、前述の運送会社では、さらに詳細な分析を行った結果、経験の浅いドライバーやリモートで働く監督者は、経験豊富なドライバーや対面でサポートを受けている従業員に比べて退職する可能性が高いことが明らかになった。