Illustration by Daniel Creel

急速に変化し続けるビジネス環境にコロナ禍が加わり、不確実性は増すばかりである。問題は、不確実性が生み出す脅威が人間の能力を低下させることだ。私たちの脳は進化の過程から、パターン認識や習慣化には長けているが、不確実性を嫌うようにできている。その脅威にさらされれば、モチベーションや集中力が落ち込み、目的意識さえも見失ってしまう。そうした状況に対処するには、長年にわたる科学的研究の知見が役に立つ。本稿では、脳を良好な状態に保つことで、自身のモチベーションやエンゲージメントを維持したり、リーダーとして部下をサポートしたりするための3つの方法を紹介する。


 新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前からすでに、仕事の世界が急速で容赦ない変化に見舞われていると、私たちのほとんどが感じていた。顧客の嗜好、顧客と従業員の期待、競争優位性などが劇的な変化を続けていたのだ。

 コロナ禍をきっかけに、あまり変わらないだろうと思われていた数少ないものにも変化が訪れた。どのように勤務時間を過ごすか、どのように同僚とのコラボレーションを行うか、そして仕事中にズボンをはくかどうかといったことだ。

 いま、あらゆる業界のリーダーが「ニューノーマル」とはどのようなものであるべきかを知ろうと血眼になっている。しかし、そうした新しい常識は日々、変わり続けているように見える。

 生活のあらゆる面で、未曾有の不確実性に直面してもモチベーションを失わないためには、そもそも人間の脳はこのような状況に対処するようにはできていない点を理解しておくことが必要だ。

 人間の脳は何が得意で、何が驚くほど不得意かを知っていれば、単に生き延びるだけでなく、大きな成功を収めるためにどのような戦略が必要とされているかが、はっきり見えてくるだろう。

 人類の歴史のほとんどの期間、人は狩猟採集生活を送っていた。人々は集団で生活し、一人ひとりの役割と生き方が明確に定められていた。時に危険はあっても、日々の生活はおおむね予見可能だった。

 そのような環境で、人間の脳は物事のパターンを見出して、習慣を確立し、極めて複雑な行動を組み合わせて、自動的に何かできるようにすることを得意とするように進化してきた。

 あなたも自家用車で職場を出発して、気づいた時には自宅のガレージにいたが、途中の記憶はほとんどないといった経験があるかもしれない。ここでいう自動的な行動とは、そのようなものを指す。

 習慣化とパターン認識が人間の脳の得意分野であるため、進化の過程を通じて、脳は不確実性を嫌う性質を持つようになった。その結果、物事の予測可能性が低下し、それに従ってコントロールが効かなくなると、人は強い不安状態に陥る。

 脅威にさらされた時、人間の脳が「闘争、凍結、逃走」のいずれかの反応を示す傾向があるという話は、あなたも聞いたことがあるかもしれない。

 一方、あまり知られていないが、脅威にさらされると、モチベーション、集中力、アジリティ(敏捷性)、協調行動、自制心、目的意識、そして全般的なウェルビーイングも落ち込む。

 加えて、脅威を感じると、ワーキングメモリー(作業記憶)の働きが著しく低下することもわかっている。問題解決に取り組もうとしても、一度に多くを頭の中に留めておけず、長期記憶から多くの情報を引き出すこともできなくなってしまう。

 不確実性が生み出す脅威は、文字通り人間の能力を低下させる。人間の脳は、不確実な状況に対処するようには進化してはいないからだ。

 それでも、人間の脳と行動に関する長年の研究の積み重ねにより、脅威に直面した時に、その状況に圧倒されるのではなく、どうにか対処できるようにする方法論については、かなり多くのことがわかってきている。

 自身のモチベーションやエンゲージメントを維持したい人であれ、自分の部下をサポートしたいリーダーであれ、本稿で紹介する3つの戦略が役立つだろう。これらは、脳を良好な状態に保つために有効な科学的裏付けがある方法論だ。