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業界に染みついたバイアスを発見し、それを打ち破ることで、革新的なビジネスチャンスを生む可能性がある。しかし実際には、自分の常識に当てはまらないアイデアを提示されると、それは非現実的な提案だと切り捨ててしまう人が多い。これは業界経験が豊富な人ほど見られる現象だ。本稿では、賢く逆張りする「スマート・コントラリアン」になるために、戦略家が陥りやすい4つの罠を紹介し、それらを回避する方法を示す。


 新しいアイデアに遭遇した時、私たちが「あやしい」と思うのには、それなりの理由がある。その多くは非現実的なのだ。

 しかし時間とともに、マネジャーは見慣れないことは何でも疑う癖がつく。世の中の仕組み(と自分が思っているもの)に反するアイデアを切り捨て、固定観念に基づいた判断を下し、選択肢を制限する文化を築いてしまうのだ。

 こうした罠にはまらないようにする秘訣は、「スマート・コントラリアン」(賢く逆張りする人)になることだ。つまり、道理に合わない仕事のやり方を探し、似たような考え方を持つ小集団に頼りすぎず、多様性を受け入れ、喜んで脇役に回れる人間になるのだ。具体的に説明しよう。

支配的な論理の罠:不協和を探せ

 戦略的意思決定の根底には、意思決定者が複雑な現実を理解する時に当てはめるメンタルモデルがあるものだ。マネジャーは、このモデルに基づいた意思決定を下し、経験とともにそれに磨きをかける。それは長い時間が経っても総じて変わらない、持って生まれた認知プロセスである。

 このプロセスでは、反主流論者のアイデアも受け入れられるはずだ。誰もが自分のモデルをつくるならば、いつもどこかで、より新しく、より優れたモデルが生まれている。

 ところが、私たちは成功したモデルを基準にするか、社会的な影響力を持つ人のモデルを採用しがちだ。その結果、支配的なナラティブが生まれ、厳格なチェックを受けなくなる。

 知恵が受け入れられて、賢く逆張りする機会が生まれるのは、まさにこの時だ。クレジットカード業界を破壊したキャピタル・ワンの創業者リチャード・フェアバンクがよい例だろう。

 シティバンクやバンク・オブ・アメリカ、チェースのような大手銀行は、既存顧客にクレジットカードを発行したり、ダイレクトメールで新規顧客を勧誘したりする。すると、利益は一定のペースで増える。新規申込者の信用力は、返済負担率、クレジットスコア、そしてインタビュースコアを通じて査定される。その総合スコアが一定以上の申込者は、みな同じ条件のクレジットカードを発行してもらう。

 1980年代の初め、フェアバンクがスタンフォード大学の学生だった時、彼はこの業界の説明会に出席した。そして、リスクベースのビジネスにもかかわらず、カード保有者はみな同じコスト(同じ年率と年会費)を支払っていることに疑問を抱いた。リスクの高いカード保有者が、リスクの低いカード保有者の補助を受けているに等しいと気づいたのだ。

 理論的には、人口動態的にターゲットを絞った(そして発行条件をカスタマイズした)ほうが、より効率的なリターンを生み出せるはずだ。そこでフェアバンクが立ち上げたのが、キャピタル・ワンだ。同社は急速に顧客基盤を拡大した。