いま、人事は大きな変化に見舞われています。その中で、これからの人事について、どのような考えや判断基準を持つことが必要でしょうか。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2021年12月号では、「これからの人事」と題した特集を組みました。

データドリブンな意思決定と
個々に寄り添う人事を目指す

 在宅勤務の制度や新卒一括採用の見直し、定年延長制度の再設計、ジョブ型雇用の導入、人工知能(AI)の活用、デジタル人材の確保・育成など、人事が取り組むべき課題は、挙げればきりがありません。そのような中、これからの人事について、どのような考えや判断基準を持つことが求められるのでしょうか。

 特集1番目は、三菱ケミカルの人事制度改革を推進する、中田るみ子氏にインタビューしました。同社は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の真っただ中にあり、ピープルアナリティクスの導入を急いでいます。ただし、その変革においては、経営陣が一枚岩となって、社員の主体性を阻害する要因を取り除き、若手の取り組みを後押しすることが大切だと言います。中田氏は「人生に影響を及ぼす仕事だからこそ、個々人に寄り添う気持ちを忘れない」と述べます。

 特集2番目の論考は、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー陣による「データ主導の人材マネジメントを実践する方法」です。300社を超える世界の大手企業を対象としたベインの調査に基づき、組織変革を成功に導く6つの要因を明らかにします。特に、テクノロジーの活用を前提とする組織・人事のあり方について理解が深まることでしょう。

 特集3番目の論文には、デジタル人材の獲得におけるヒントがあります。いま、優れた専門職者の獲得と人材の多様化が急務となり、仕事復帰プログラムを提供する企業が増えています。たとえば、アマゾン・ドットコムでは1000人規模の採用を発表しました。その対象は、主に育児や介護などの理由で一時的にキャリアを中断した人材です。日本企業も、「優れた専門人材のキャリア再開をどう支援すべきか」について議論すべきタイミングを迎えています。

 特集4番目は、ハーバード・ビジネス・スクールのライアン・ビュエル教授による、従業員の価値を再考するよう促す論考です。金融危機に伴う景気後退で従業員数の削減に走った企業に対し、教授は「パンデミック後、同じことをしてはならない」と警鐘を鳴らします。なぜなら、従業員が顧客と有意義なつながりを持つことが企業に計り知れないメリットをもたらすからです。

 特集5番目は、セールスフォース・ドットコムの日本法人で人事トップを務める鈴木雅則氏の寄稿です。同社は「働きがいのある会社」として数々の表彰を受けており、その人材マネジメントの特徴は、社員の成功に焦点を定める「エンプロイサクセス」にあります。人事情報の透明性を高め、テクノロジーを徹底的に活用し、データドリブンな意思決定を行う。それが社員の成長を後押しします。根幹にあるのは4つのコアバリューです。「信頼」や「平等」をベースに行われる数々の取り組みは、次代の人材マネジメントを考える参考になるはずです。

 そのセールスフォースも重視していたのが、「無意識の偏見」への対応です。自身すら気づいていない偏見が判断を曇らせる原因となることがあります。企業の研修も進んでいますが、ハーバード・ビジネス・スクールのフランチェスカ・ジーノ教授らは、従来のやり方の致命的欠陥を指摘します。特集6番目の「アンコンシャスバイアス研修はなぜ機能しないのか」では、その解決策を提示します。

 このように、これからの人事を見据えるうえで参考になる数々の論文を取り揃えました。ぜひご一読ください。(編集長・小島健志)