
企業のイノベーションや問題解決には多様なアイデアが欠かせないことから、マネジャーは従業員に積極的に意見を述べてほしいと思っている。だが、その重要性を理解しても、行動に結びついていないのが現状だ。消極的なのは従業員の性格のせいだと決めつけがちだが、重要なのは「選択」という概念だと筆者らは主張する。「常に選択肢がある」という考え方が組織に浸透していると、自分は周囲の世界に影響を与えることができるという感覚をもたらし、自信につながるというのだ。本稿では一連の実験結果に基づき、従業員が自由に意見を述べることができる企業文化を醸成するために、なぜ選択の概念が重要かを論じる。
ヴァージン・グループの創業者で、傘下の投資会社ヴァージン・エンタプライジズのCEOでもあるリチャード・ブランソンの有名な言葉がある。「選択は人に権限と自信を与え、仕事の充実度を高める」。ヴァージン・エンタープライジズは、従業員のアイデアや意見を聞くことでも知られている。
2015年、中長距離列車を運行していたヴァージン・トレインズの現場職員、べサン・パットフィールドは、ブリン・ウィリアムズという有名なシェフが、ロンドンの往復にヴァージン・トレインズを定期的に利用していることに気づいた。
そこでパットフィールドは、ウィリアムズとパートナーシップを組み、平凡な車内メニューを刷新するアイデアを提案した。その結果、ヴァージンとウィリアムズはまったく新しいメニューを開発し、それが乗客の間で大きな評判となった。
はたして、ヴァージンの「選択の重視」と同グループの「従業員の意見の重視」との間には、何か関係があるのだろうか。
マネジャーのほとんどは、従業員に意見を表明する権限と自信を与えることが、企業の革新や問題の発見に役立つことを理解している。ところが、この理解は実際の行動には結びついていないようだ。
調査研究によれば、従業員の85%以上が周囲からネガティブに見られることを懸念して、会社にとって重大な問題について発言を控えているという。
マネジャーはどうすれば、従業員が職場で思ったことを自由に話せるようにできるか。
従業員が自分の意見を述べるかどうかは、本人のパーソナリティと、彼らの周囲を取り巻く企業文化の両者による。だが、重要なことに、企業文化の影響は非常に大きく、従業員の意見を形成するにあたっては、本人の性格が果たす役割よりも組織文化のほうが優位に働く場合がある。
言い換えれば、自分の考えを口に出す可能性が低い性格の持ち主であっても、適切な環境が与えられれば、自分を奮い起こして、自分の意見を発言する可能性があるということだ。つまり、それに適した企業文化を醸成することが、従業員の意見を引き出すカギとなる。