Illustration by Simo Liu

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが収束の兆しを見せ始める中、コロナ禍で転職を控えていた従業員たちが大量に離職する「大退職時代」(グレート・レジグネーション)の到来が予見されている。この最悪の事態を防ぐうえで、企業に何ができるのか。科学的に有効性が証明されている手段の一つが、従業員エンゲージメントを高めることである。本稿では、企業の取り組みが必ずしも効果を発揮していない現実を示し、従業員エンゲージメントを高める3つの方法を具体的に紹介する。


 世界が新型コロナウイルス感染症からの回復に向けてつまずきながら進む中、専門家らは「大退職時代」(グレート・レジグネーション)と呼ばれる従業員の自発的な離職の急増を警告している。

 たとえば、ある調査によると、2021年8月時点で就業している人の55%が、今後12カ月以内に新しい仕事を探す意向だという。迫り来る離職の波に対処するため、企業はこれまで以上に従業員エンゲージメントの向上に注力する必要がある。

 その根拠は明白だ。エンゲージメントの高い従業員はパフォーマンスが高くバーンアウト(燃え尽き)せず勤続年数が長い傾向がある。エンゲージメントの重要性から、筆者らは「従業員エンゲージメント・チェックリスト」を作成した。不確実性が高まるこの重要な時期に実務家が利用できる、研究に基づいたリソースだ。

 チェックリストの作成にあたり、学術文献を調べ、エンゲージメントの最も重要な20の要因をまとめた。また、コロナ後に従業員をエンゲージさせる要因について独自のデータを収集し、従業員エンゲージメントを高めるとマネジャーが予測したことと比較したうえで、それを促進するためのエビデンスに基づく推奨事項を策定した。

 そして、従業員エンゲージメントを高めるためにマネジャーがすぐに実施できる、最も重要な3つの方法を明らかにした。(a)従業員が自分の仕事と関心事を結びつけられるようにする、(b)仕事をストレスの少ない、喜びを感じるものにする、(c)金銭的インセンティブに加えて休暇を従業員に与える、というものだ。

 しかし、マネジャー302人を対象とした追跡調査で示されたように、リーダーは多くの場合、従業員エンゲージメントの促進に最も重要なものを認識していない。リーダーが最も重要だと「考えている」手段は、「実際に」最も重要なものと一致していないのだ。

 リーダーが従業員に必要だと考えているものと、従業員が実際に必要としているものとの間に不一致があることは、従業員をエンゲージさせるうえで何が最も効果的かに関するガイダンスが必要だということだ。

科学の知見を実行に移す

 学術論文では、従業員エンゲージメントには4つの要素が含まれ、以下の点における従業員のレベルと考えることができる。

・組織にコミットしていると感じる。
・組織に帰属意識を抱いている。
・仕事に満足している。
・仕事にやる気を感じている。

 これらの要素は、従業員に尺度を自己報告してもらうことで測定できることが多い(「あなたはどのくらい組織にコミットしていますか」など)。筆者らは従業員エンゲージメントの測定法をパブリックリポジトリに公開し、関心のある読者がダウンロードして使用できるようにしている。

 学術研究者らは半世紀以上にわたり、従業員エンゲージメントにおける中心的課題を扱い、それらを高める方法などを研究してきた。2020年だけでも、エンゲージメントに関する学術論文が1500以上発表されている。

 エビデンスに基づいたアプローチを求めるマネジメントの実務家やコンサルタントは、圧倒的な量の知識を取り入れなくてはならない。それらの知見を正しく適用するにはどうすればよいのだろう。

 その疑問に答えるために、筆者らは米国のプロフェッショナル395人のサンプルを募集し、2021年4月から5月にかけて、筆者ら自身が網羅したエンゲージメントを促進する要因と、報告されたエンゲージメントのレベルを2つの時点(1週間間隔)で測定した。過去のマネジメント理論によって特定した最も影響力のある20のエンゲージメントの要因から、研究結果とチェックリストでは最も重要な3つを強調している。