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買収計画はなぜ走り出したら止まらないのか
企業買収は一見華々しいが、デュー・ディリジェンスは実に地味な作業である。多くの企業が価値を生み出さない買収を繰り返している原因は、このデュー・ディリジェンスの問題に尽きる。
大企業は大規模なチームを編成し、大金を投じ、買収の規模やその影響度を慎重に検討しているかに見える。しかし、ひとたび候補企業を決めてしまうと、その買収に向けて猪突猛進し始め、もはやこの勢いに抗うのは難しい。
デュー・ディリジェンスの多くは、買収の正当性と候補企業のケイパビリティを正確に分析しないまま、ただ財務諸表の検討に終始している。そして、後に候補企業に重大な欠陥が発覚しても、買収計画が撤回されることはほとんどない。
全米規模で展開している大手スーパーマーケット・チェーン、セーフウェイの例で説明しよう。
同社の経営陣は、ことM&Aにかけては高い評価を受けており、これまでさまざまな案件を成功させてきた。1998年、セーフウェイはシカゴ地域の食品専門の新興小売りチェーン、ドミニクスを買収した。その買収価額は18億ドルだった。
その論理は非の打ちどころがないように思われた。当時、ウォルマート・ストアーズやKマート(大手シアーズ・ローバックと合併)などの量販店でも食料品を販売し始め、従来の食品専門小売りの市場シェアを奪いつつあった。そこでセーフウェイは、ドミニクスを買収すれば、総売上高は約11%向上し、同時に主要都市部でシェアが確保できると考えた。
ドミニクスの営業キャッシュフロー率7.5%はセーフウェイの8.4%より低かったが、セーフウェイのCEO、スティーブ・バードは短期間でこれを9.5%まで引き上げられると投資家たちを説得した。この勢いに乗じて、セーフウェイはわずか5週間で契約をまとめた。これは大規模買収の成立に要する期間の約3分の1である。