みずからが手本となり
iPS細胞の可能性を広げる

編集部(以下色文字):人工の万能細胞と呼ばれる「iPS細胞」(人工多能性幹細胞)から作製した網膜の細胞を難病患者の目に移植するという、世界初の移植手術からおよそ7年が経ちました。この取り組みは社会をどう変えたとお考えですか。

髙橋(以下略):2014年、「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」という難病の患者に、iPS細胞からつくった「網膜色素上皮(もうまくしきそじょうひ)細胞」を移植する手術を行いました。これは世界で初めてのことで、いま振り返っても、ヒトを対象にした臨床試験の1例目として非常に大きな意味があったと思います。

 もともとiPS細胞は、人間の皮膚や血液の細胞から大量につくることのできる万能細胞といわれており、2006年に山中伸弥先生(京都大学教授、同大iPS細胞研究所長)のグループがマウスの皮膚細胞から初めてつくることに成功しました。2007年にはヒトの皮膚細胞からiPS細胞をつくり、けがや病気で失った機能を回復させる「再生医療」への応用に期待が集まりました。