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ダイバーシティ戦略に注力する企業がますます増える中、決められた数値目標を達成すべく、さまざまなアプローチが試みられている。だが、指標や数字に頼りすぎると、インクルーシブな職場に本来欠かせない要素、すなわち気づきやつながり、共感、相互尊重を台無しにしてしまうおそれがあると、筆者らは指摘する。実際の行動を変えるのは数値ではなく、従業員自身のストーリーだ。一人ひとりが自分自身のストーリーを語り、それをみずから受け入れ、逆に相手のストーリーを受け入れることでどれだけのインパクトが与えられるのか。インクルージョンを促進すべく、ストーリーベースのアプローチを実践するための具体的な方法を紹介する。


 未曾有の過酷な2年間を経て、2021年はインクルージョン(包摂)に関する議論がさかんに行われた。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック、ブリオナ・テイラーやジョージ・フロイド、そしてアマード・アーベリーら黒人の殺害事件、アジア人やユダヤ人のコミュニティに対するヘイトクライム、そしていっこうに改善しない働く女性の立場。立て続けに起きたこれらの出来事を通じて、多くの組織はインクルージョンの大切さに目覚めつつある。

 しかし、いま一度活発になったインクルージョンの議論は、具体的な成果につながっているのか。実際、何らかのインパクトを与えたのだろうか。

 インクルージョンコンサルタントである筆者らは、ビジネスケースやスコアカード、ターゲットといったダイバーシティ指標を強化する企業がますます増えているのを目にしている。重要な事柄はすべて数値化できるはず、というわけだ。

 これらのプログラムは、労働力のデモグラフィックス(人口統計学的属性)や多様な人材の雇用、リテンション(定着)率、昇進率、ダイバーシティとエクイティ(公平性)とインクルージョンの3要素(DEI)を高める資源の活用度などを追跡する。

 そうした評価基準には、それなりの意味がある。一方で、それらだけではインクルージョンを創出するには不十分であることを、筆者らは明らかにしてきた。

 実のところ、過度に数値に頼るアプローチは、インクルーシブな職場に取り込みたいと考えている要素を、むしろないがしろにしてしまう。すなわち、気づきやつながり、共感、相互尊重である。

 意識を覚醒し、気づきのある環境を構築しようとするにあたり、数値によってみずからの行動が変わったケースはほとんどないことを、私たちは忘れがちだ。行動を変える力を持っているのは個々の人間、そしてその一人ひとりの背景にあるストーリーなのだ。

 筆者らのクライアント企業では、ストーリーテリングやフォーカスグループ、リスニングセッションなどを通じて、個人的な体験を互いに語ることによって、個人レベルでの持続的変化がもたらされている。

 従業員が自分自身のストーリーを語り、それをみずから受け入れることで、職場での日々の経験にどのようなインパクトを与えるかを考えるように奨励される。そのようなストーリーベースのアプローチを実践することで、インクルージョンを実際に促進することができる。