
男女間の賃金格差の存在は広く知られているが、英国や米国の一部の州では、企業に対して賃金格差の情報開示を法令で義務付ける動きが進んでいる。実際に男女間賃金格差が公表された時、企業と顧客にどのような影響をもたらすのか。筆者らが行った実験や分析からは、賃金格差の存在はすでに知られているので、消費者の心理や行動に大きな影響はないという見立てがあるにもかかわらず、極めてネガティブな反応が生じることが明らかになった。本稿では、情報開示がネガティブな反応に結びつく3つの要因を論じたうえで、その影響を和らげるために企業がいますぐ実行すべき4つの戦略を紹介する。
一般に、男性の賃金が女性の賃金に比べて高いことは広く知られている。この傾向は、職務上の肩書や資格を考慮しても変わらない。しかし、新たな法令により、近いうちに一般的な男女間賃金格差の統計だけでなく、各企業の詳細な賃金データも見られるようになる可能性がある。
英国では2018年に採択された法令により、一般に検索可能なウェブサイトで賃金格差のデータを開示することが、すべての企業に義務付けられた。米国ではイリノイ州が2021年3月、複数の州に続いて、従業員100人以上の企業に対し、ジェンダー別および人種別に示した賃金統計の提出を義務付けた。これも州のホームページで開示される。
このように企業の同一労働同一賃金に関する状況が広く公表されるようになったことは、企業とその顧客にどのような影響を与えるのだろうか。
あまりにひどいジェンダー不平等や人種的不平等を目にすると、消費者がネガティブな反応を示したり、場合によってはボイコット(不買運動)に至ったりすることがある。筆者らは最近の研究で、賃金格差の公表が顧客にどのような影響を与えるかに焦点を絞り、検証を行った。
賃金格差の問題は広く知られているため、消費者は新たな情報公開にさほど注目せず、そのインパクトも最小限に留まるだろう。筆者らは、そのように考えた。ところが、ある企業の男女間賃金格差を知ると、消費者はソーシャルメディアにその会社に関するネガティブな投稿をしたり、その会社の商品に対する評価が下がったり、商品を購入する可能性が実際に低下したりすることが明らかになった。
また、賃金格差の情報は、男女を問わず消費者のネガティブな反応を生む。ただし、男性よりも女性のほうが、賃金格差が明らかになった会社から離れていく可能性が高いことがわかった。