HBR Staff

グローバル化やデジタル化が進む中、消費者はこれまで以上に、自分にまつわる場所や人や過去とのつながりを感じさせる商品を求めている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで生活が激変したことで、地に足のついた感覚を求める傾向が加速しているからだ。マーケターは消費者の感情的な変化を的確に捉えて、自社ブランドの特徴を戦略的に訴求すべきである。


 現在の市場トレンドを見ると、多くの消費者は次のような商品を求めているようだ。地域に根差し、生身の人間によってつくられた、伝統的なもの――あるいは少なくとも、顧客に子どもの頃を思い出させるものである。

 これは食品業界にも見られ、農産物の直売所の増加、職人が焼いたパンの需要の高まり、地産地消ブーム、新型コロナウイルス感染症のパンデミック期間における伝統的な食品ブランドへの回帰といった形で現れている。

 また、ハンドメイド製品のオンライン・マーケットプレイスであるエッツィーは、2020年の世界のユーザー数が8190万人、流通総額は103億米ドルという見事な業績を発表した(Etsy 2021を参照)。

 グローバル化、デジタル化、そして現代社会でテクノロジーとイノベーションが好まれる傾向といった背景を踏まえると、この潮流は意外である。

 いかなる要因が働いているのだろうか。筆者らは最近発表した論文の中で、この傾向は、地に足のついた感覚を求めるニーズが消費者の間で高まっているためだと論じている。

 デジタル化とグローバル化によって、私たちの社会生活と労働生活はバーチャル化、高速化、モバイル化がいっそう進み、多くの人々は精神的な拠り所を失ったように感じている。顧客は地に足のついた感覚を求めて、場所や人や過去に自分を結び付けてくれる商品を購入するのだ。

 たとえば、農産物の直売所で提供される商品は、どんな場所なのかが明確にわかる近隣の土地で生産され、栽培と販売をしているのは生身の人間であり、顧客は彼らと直接つながりを築くことができる。そして昔ながらの方法で栽培されている、あるいは伝統的なエアルーム品種(長年受け継がれてきた品種)である場合が多い。

 米国の消費者を代表するモニター群に筆者らが実施した調査によれば、デジタル化、都市化、世界的な変化といった大きな潮流に、日々の仕事と生活がより色濃く影響を受けている消費者ほど、地に足のついた感覚をより強く必要としていた。

 このニーズのスコアが高い回答者に顕著だったのは、PCでのデスクワークが多く、社会経済的地位がより高く、新型コロナウイルス感染症によって生活が変化したという認識が強く、大都市に住んでいるという傾向だ。

 そしてこれらの消費者は、自分にまつわる場所、人、過去に結び付く商品を購入することへの関心がより強かった。筆者らが行った実験で、参加者は既存の工業ブランドの石鹸よりも、インディーズの職人的ブランドの石鹸に対し、最大60%多く支払う意図を示した。後者は、場所、人、過去に結び付く感覚をより強く生じさせたからだ。

 地に足のついた感覚を持つことは、大きな影響を伴う。別のアンケート調査で、アップルパイをつくる時に地元産のリンゴを使った人は、そうでない人に比べ、精神的な強さ、安全、安定を感じる度合いがより高く、困難に動じない心構えもより強いことが回答で示された。

 しっかり地に足がついているという感覚は、強さとレジリエンス(再起力)をもたらす確固たる土台のようなものなのだ。