Yaroslav Danylchenko/Stocksy

ビジネスを成功に導くうえで、創造性とイノベーションが欠かせない。しかし、リーダーが3つの点で誤解をしているため、従業員がクリエイティビティを発揮しにくい環境をつくり出し、それがイノベーションを妨げている可能性があると、筆者らは指摘する。本稿では、3つの誤解を詳細に説明したうえで、それぞれを解消する方法を示す。


 リーダーはよく、ビジネスを成功に導く決定的な要因として創造性とイノベーションを挙げるが、創造性が開花する環境づくりをうながせていない企業も多い。マネジャーが犯しやすい過ちには3つのパターンがあり、そのせいで新たな発想を妨げ、自分の考えと相いれない提案を抑え込んでしまうのだ。

 2017年、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が1379人のCEOを対象に行った調査により、大半の企業で「イノベーション」が最優先課題に位置付けられ、77%のCEOが創造性とイノベーションのスキルを備えた従業員の発掘に苦労していることが明らかになった。また、リンクトインが2020年に行った分析でも、最も需要の高いソフトスキルとして「創造性」が挙げられていた。

 多くの組織が従業員の創造性をうまく引き出せずに、手を焼いているのはなぜか。その答えは、創造的な企業文化の創出を阻む、些細だが根深く染み込んだ行動様式にある。筆者らは、創造的な企業風土を育むために、マネジャーが解消すべき3つの誤解を特定した。

生産性の幻想

 数カ月前、グーグルCEOのサンダー・ピチャイに関する否定的な記事が報道された。彼の意思決定プロセスが遅いせいで、イノベーションが抑制されているというのだ。

 この記事は、意思決定のスピードとイノベーションを同一視するという誤りを犯している。ピチャイの決断の「遅さ」がイノベーションにつながったかどうかは筆者らに判断できないが、「意思決定が遅いとイノベーションの妨げになる」という考え方は、生産性にはスピードが必須という幻想につながりやすい誤解だ。

 ピチャイは分散型の意思決定や無駄なプロジェクトの削減に代表される他の対策と合わせて、イノベーションと生産性についてもしっかりとしたアプローチを取っている。グーグルにおけるイノベーションの増加や株価の躍進は、その表れだ。

 会社の規模に関わらず、あなたも筆者らが本稿で「デイブ」と呼ぶ、架空の従業員のような人間に出会ったことがあるだろう。デイブは皆に好かれるタイプのリーダーで、周囲からは思考が早く決断力がある、仕事のできる人物と見なされている。

 大半の時間をグループミーティングに費やすのが、彼の典型的な一日の過ごし方だ。チームのメンバーが取り組む課題に注意深く耳を傾け、意見を述べて問題解決のサポートをする。その日の「やることリスト」をすべて完了するまで職場に残る自分を誇りに思い、リストの項目に完了のチェックを入れるたびに充足感を覚える。そして、生産的な一日を過ごせたことに満足して会社を出る。

 デイブの問題解決能力とチームへの貢献を見れば、たいていの人は彼を優れたリーダーだと思うだろう。だが、急いで結論を出すべきではない(ちなみに、これは文字通りの意味だ)。

 物事、特に複雑な問題の解決を急ぎすぎると、「拙速な幕引き」の罠に陥り、イノベーションに有害な影響が生じる。拙速な幕引きに抵抗する──創造性の重要な一側面だ──とは、取りうる解決策が手元にあってもオープンマインドを持ち続ける力のことだ。最初の1、2回のミーティングではなく、長めの「培養期間」を経た後に、最善の策が出てくる場合もあるからだ。

「素早く動き、破壊せよ」といった類のスローガンには人々の背中を押す効果があるが、その根底に複雑な問題が存在する場合には裏目に出る恐れもある。そうした状況では、手っ取り早く(往々にしてあまり創造的でない形で)解決策を見つけたくなる誘惑に抗い、さらなるアイデアを探し続けるようチームメンバーを鼓舞する(メンバーには嫌がられるだろうが)ことが、よりイノベーティブで幅広い解決策につながる。

 拙速な幕引きを避けるためには、チームとして「ほぼ最終」の案にたどり着いたうえで、行動に移すのを意図的に遅らせ、さらなる培養の時間を確保すべきだ。その間に全員が本気で思考をめぐらせ、アイデアを共有する。それでも元の案を上回る解決策が出なければ、当初の案を実行に移せばよい。