
部下のパフォーマンスを改善するために、上司からのフィードバックを取り入れる企業は多い。しかし、その内容がポジティブであれネガティブであれ、フィードバックが目標達成につながることはめったにない。本稿ではその理由を明らかにするとともに、部下の成長を促し、パフォーマンス向上を実現する4つのステップを紹介する。
筆者らのクライアントの投資銀行内で2000人を擁するIT部門は、離職率の急増という問題を抱えていた。従業員たちへのインタビューで、筆者らは次のような言葉を何度も耳にした。「私のキャリアについて相談しやすい相手は、自分の上司よりもヘッドハンターです」
そこで、同部門はフィードバックのキャンペーンを始めた。コンサルティング会社に100万ドル以上を支払い、カスタマイズされた緻密なコンピテンシーモデルを開発した。従業員の業績を(関連する数十のコンピテンシーに基づいて)評価し、能力の不足部分と向上機会についてフィードバックを提供するために、マネジャーらは訓練を受けた。
しかし、いずれも効果はなかった。2年後、マネジャーの50%は依然として業績評価を終えておらず、実施された評価はパフォーマンスにほとんど影響を及ぼさないまま、離職率は望ましくない高水準に留まっていた。
これらはすべて、予想できたことである。なぜなら、フィードバックによって目標が達成されることはめったにないからだ。
フィードバックの意味は何か
企業は過去30年にわたり、フィードバックの文化を築くことに大きく注力してきたが、そもそもなぜフィードバックをするのかという理由を忘れている。
フィードバックの目的は、従業員のパフォーマンスの向上を助けることだ。技能を高め、潜在能力を発揮し、自分のチームに大きく貢献して、同僚とうまく関係を築いてほしいという狙いがある。そして組織に求められるのは、従業員たちが自身の成長とパフォーマンスの向上に取り組みながら、互いに巧みで率直なコミュニケーションができる場になることだ。どれも価値のある目標である。
しかし、ここで問題がある。目標の未達を指摘することと、目標の達成を支援することは同じではないのだ。
むしろ、それは往々にして逆効果となる。ケース・ウエスタン・リザーブ大学ウェザーヘッドスクール・オブ・マネジメントで教授を務めるリチャード・ボヤツィスの研究チームの発見によれば、360度フィードバックの対話を通じたネガティブなフィードバック(「あなたのやり方はここが間違っています」)は、エンゲージメントを低下させ、将来の目標と願望について考える意欲を抑圧する。
また、それを「建設的な」フィードバックと称してごまかすこともできない。ADPリサーチ・インスティテュートのマーカス・バッキンガムとシスコシステムズのアシュリー・グドールは、2019年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論文「フィードバックの誤謬」の中で、フィードバックで欠点や弱みに焦点を当てても相手の能力向上に寄与しないことを示す、確かなエビデンスを集めている。
これは考えてみれば、至極当然だろう。あらゆるコミュニケーション形式の中で、発信と受け取りが最も難しいのはおそらくフィードバックである。
与える側は批判しなければならず、相手の感情を傷つけるかもしれない。ゆえに、そもそも対話を避けてしまう。よしんば対話が行われるとしても、受ける側が聞かされるのは何であれ「あなたは力不足であり、変わる必要がある」という意味の言葉であり、恥ずかしく思う可能性が高い。
人は恥ずかしい思いをするのを避けるためなら、あらゆる手段に出る。問題を認めなかったり(問題がない=恥ではない)、他者のせいにしたりする(自分の過ちではない=恥ではない)こともそこに含まれる。たとえフィードバックを前向きかつ「大人の態度」で受け取っているように見えても、内心ではえてして闘争・逃走モードになっているものだ。
一方で、相手の成果に焦点を当てるポジティブなフィードバックの場合はどうだろうか。それもある種の批判だ。相手の行動の特定部分は評価できるということは、他の部分は評価できないという意味でもある。加えて、ポジティブな部分に焦点を当てることは必ずしも、パフォーマンスを妨げている弱みへの対処にはならない。
では、フィードバックが従業員の能力向上を後押ししないのであれば、何が奏功するのだろうか。筆者らの共著You Can Change Other people(未訳)では、4段階のプロセスを紹介している。