映画会社6社が20世紀を通じて権力を維持してきたのは、3つの重要かつ希少な市場リソースを支配することができたからだ。すなわち、コンテンツを制作するための資金と技術、コンテンツの流通に必要なチャネル、そして著作権法を使って消費者がコンテンツにアクセスする方法をコントロールする能力である。

 しかし、2015年の時点では、デジタル技術によってこうした希少資源がどれも豊富になっていることに、彼らは気づいていなかった。

 新たなデジタル技術によって、コンテンツ制作に必要なツールへのアクセスが民主化された。新しいデジタルチャネルによって、クリエイターは放送局や映画館、実店舗の棚という希少なキャパシティに限定されることなく、オーディエンスにリーチできるようになった。

 そしてデジタル上の著作権侵害によって、消費者は無料でコンテンツにアクセスできるようになった。それは、映画会社が確立してきたこれまでのビジネスモデルすべてを否定するようなものだった。

 デジタルトランスフォーメーションは、これまで市場支配力を決定していた希少資源を豊富にする一方で、新たな希少資源、すなわち新たな競争優位の源泉を生み出した。顧客の注目(アテンション)だ。

 映画会社が直面していた問題は、既存のチャネルではどれも顧客に直接アクセスできないことだった。興行収入やニールセンのテレビ視聴率を利用して、特定の都市で映画を見た観客数や、前夜のゴールデンタイムの放送を見た消費者の一般的なデモグラフィック属性を知ることはできても、顧客個人については何も知らず、視聴行動を管理・仲介するための詳細な顧客データのソースを利用できるようなチャネルは支配していなかった。

 さらに悪いことに、ネットフリックス、アマゾン、グーグル傘下のユーチューブをはじめ、それが可能だった企業は、詳細な顧客データを使って川下のデジタルチャネルに対する支配力を強化し、それによって川上とコンテンツ制作を垂直統合していた。

 2015年には、他の「破壊された」業界で市場をリードしていた多くの企業のように、大手映画会社もただ勢いを失うばかりで、いずれ消滅すると思われていたかもしれない。しかし、実際にはそうならなかった。そして、その理由が、デジタルトランスフォーメーションに直面している業界のマネジャーが進むべき道を示している。

 映画会社はなぜ、新しいデジタル技術の脅威に対応できたのか。それは「映画館の客席を埋め、ゴールデンタイムのテレビで広告を流し、プラスチック製の光るディスクを20ドルで売ることによって、希少なコンテンツを希少なチャネルで販売する」という既存のビジネスモデルを守ろうとすることをやめ、映画業界の基礎をなすビジネスミッションを再発見できたからだ。つまり、優れたエンタテインメントを創造し、それを適切なオーディエンスに届けることである。

 この新たな視点によって、映画会社は新たな技術とビジネスモデルを受け入れ始めた。ディズニープラス、HBOマックス、ピーコック、フールーをはじめとする活気に満ちた新しいデジタル配信プラットフォームの構築、古い組織構造を新たなビジネスの現実に適合させるための大規模なリストラクチャリングの実行、直感的なマーケティングからデータとエビデンスに基づいた意思決定への文化的な大転換などだ。