
人工知能(AI)を利用した製品やサービスが日常にますます浸透していく中、これまで以上に「誰がAIを開発しているか」が重要になっている。AI開発にはそれに携わる人たちの世界観が深く反映され、担当者の倫理観や設計の選択に囚われがちだからだ。より広範かつ多様な人々の役に立つAIを構築するには、開発者の多様性が欠かせない。その妨げになっているのが、高度なAI人材をはじめとする重要なリソースが、ごく一部の都市に集中していることだ。本稿では、AI人材が集積している都市「世界トップ50」を特定し、そこから得られた知見を通じて、企業が取るべき戦略を論じる。
人工知能(AI)は一つの節目を越えたといえるだろう。「AIはこの5年の間に、もっぱら大学の研究室のような高度にコントロールされた環境で用いられるものから、実社会で人々の生活に影響を及ぼすものへと大きな飛躍を遂げた」と、スタンフォード大学のプロジェクト「人工知能100年研究」(AI100)で責任者を務めるマイケル・リットマンは述べている。
リットマンが言いたいことはよくわかる。AIの影響により、オートメーションが実現し、効率性が向上して、生産性が改善し、新しい雇用が創出され、サイバー空間における脅威と詐欺のリスクが軽減されている。
コロナ禍においても、AIのおかげで新型コロナウイルス感染症の有効な検査と迅速なワクチン開発が可能になった。AIが食料品のサプライチェーンマネジメントを支援したり、リモート教育で一人ひとりの学生・生徒に合わせて教育内容を調整したりもした。
AIが私たちの生活のさまざまな側面により浸透していくのに伴い、「誰がAIを開発しているか」が、これまで以上に精査されるようになった。
AIの開発と実装が倫理的な方法で行われ、より広範かつ多様な人々の役に立ち、私たちの平等と自由をしっかり守るためには、一部に限定された開発者の倫理観や設計の選択、アプリケーションにおける優先順位に囚われることを避けなくてはならない。
AIの開発者が自身の世界観に影響されるのは当然のことだ。その世界観に沿ったアプリケーション、データ、そしてアルゴリズムのトレーニングを選ばずにいられない。
開発者の世界観は、その人物のジェンダー、人種、民族、暮らす地域の影響を受けて形成される。したがって、開発に携わる一人ひとりの世界観がプロダクトそのものに深遠な影響を及ぼすAI関連の領域では、他のテクノロジー分野以上に、人材プールのダイバーシティとインクルージョンが欠かせない。
人材プールの多様性を改善しようと思えば、埋めなくてはならない格差はあまりに大きい。筆者らが所属するタフツ大学フレッチャースクールのプロジェクト「デジタルプラネット」の研究によれば、AI分野の人材プールに女性が占める割合は17%にすぎない。この割合は、STEM(科学・技術・工学・数学)分野全体では27%だった。
また、ジョージタウン大学センター・フォー・セキュリティ・アンド・エマージングテクノロジーの調査によると、AI関連の技術職に就いている労働者のうち、黒人の割合はわずか11.8%留まる。