
クライアントとの打ち合わせに男性と女性が出てきた場合、「男性が上司で、女性が部下」と決めつけた経験はないだろうか。女性がCEO、教授、弁護士、医師などの職に就いていても、秘書、アシスタント、裁判所速記者、看護師のようにサポート役だと思われがちだ。筆者らはこのような現象を「役職不信」と呼ぶ。ジェンダーバイアスの一種である役職不信を未然に防いだり、是正したりするために、リーダーや職場のアライ、そして女性自身にもできることがある。本稿では、女性の肩書きやポジションについて正しい情報を伝え、バイアスや思い込みを軽減する方法を論じる。
デジタルマーケターのアレクサンドラ(仮名)は、クライアントとのミーティングに一人で出向くと、頻繁に「彼が来るのを待ちますか」と聞かれた。「彼」とは、アレクサンドラの男性上司と想像される人物だ。クライアントはアレクサンドラのことを、意思決定権のないサポート役だと思っていたのだ。
当初、アレクサンドラはクライアントの機嫌を損ねることを恐れて、大した誤解ではないかのように振る舞っていた。しかし、すぐに相手側の上から目線が議論の制約になっていることに気づいた。「交渉の席で、こちらが口も開かないうちから『あなたでは役不足だ』と面と向かって言われ、やる気が失せました。いまもやる気がないままです」
アレクサンドラの経験は珍しいものではない。多くの女性は、組織における自分のポジションについて、同じような思い込みに直面してきた。筆者らは、そのような現象を表す用語として、「役職不信」という新たな呼び方を提唱している。
役職不信はジェンダーバイアスの一種だ。女性はリーダーシップ、つまり一般に男性が務めると考えられているCEO、教授、弁護士、医師、エンジニアといったポジションではなく、秘書やアシスタント、裁判所速記者、看護師、妻、ガールフレンドのように、一般に女性が務めると考えられているサポート役だと誤解される現象を指す。
このような状況では、女性は自己主張したり、自分の立場を証明したりすることに余計なエネルギーを使わなくてはならない。また、みずから立場を説明することで、そのポジションに見合う信用や権威を欠くと判断される場合がある。
筆者らがインタビューや自由回答形式質問法による調査、ソーシャルメディアの投稿、メディアに掲載された記事から収集したデータセットについて検証を行ったところ、役職不信はありがちな問題であるという事実が浮かび上がってきた。
ツイッターでは、多くの女性が役職不信に対するフラストレーションを表明していた。なかには、男性が大多数を占めるポジションに就いているように見えないと、はっきり言われた(「エンジニアには見えない」)女性もいれば、不信感を示された女性もいた。
ある女性は、同僚に紹介された男性の友人が、彼女が記者であることに驚きを示し、報道局にいる女性は「男性のためにニュース原稿をタイプする」のが役割だと思っていた、と言われたエピソードを紹介している。
役職不信は、身の危険をもたらす場合もある。ある地球微生物学者は、若い男性スタッフが彼女の言うことを聞かなかったために、自分の実験室で怪我をしてしまったという。