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サプライチェーンマネジメントにはさまざまな課題がつきまとう。パイオニアとして知られるウォルマートも例外ではない。運送業者によるインボイス作成から支払いプロセスに至るまで、データに膨大な不一致が生じ手作業で照合していたので、莫大な時間とコストがかかっていた。ウォルマート・カナダが解決策として採用したのが、ブロックチェーン導入によるプロセスの自動化だ。本稿では、同社の事例を紹介し、その経験から学べる教訓を論じる。


 ウォルマートは長年にわたり、サプライチェーンマネジメントの先進企業として知られている。しかし、同社のように強靭な体制を構築していても、運送業界を古くから悩ませ続けた問題から逃れることはできなかった。運送会社によるインボイス(適格請求書)作成とその支払いに関するプロセスでデータに膨大な不一致が生じ、その照合に莫大なコストがかかることで、運送業者への支払いが大幅に遅れていた。

 そこで、ウォルマート・カナダは新たな解決策を編み出した。分散型台帳技術のブロックチェーンを活用し、サードパーティである運送業者70社からのインボイスの受領と運送費の支払いの管理を自動化しようと考えたのだ。

 この取り組みは著者の一人ジョン・ベイリスが率いるウォルマート・カナダのチームが、新たな問題解決策を探そうと考えたことから始まった。ウォルマート・カナダでは、カナダ全土の配送センターと小売店舗に年間50万回以上の貨物配送を行い、自社の運送トラックとサードパーティの運送業者の両方を利用している。そのため、配送プロセスで生じるデータは膨大な量だった。

 州の境界や標準時の違い、さらに気候の違いを超えて、途方もない量の品物(その多くは棄損しやすい生鮮品だ)を配送するサービスには、オペレーション上のさまざまな課題がつきまとう。たとえば、それぞれの貨物には追跡が必要なデータポイントが大量に存在する。配送ルート、ガソリン使用量、温度をはじめとする必要情報をそれぞれ計測し、インボイスに記載しなくてはならない。インボイスに記載の必要があるデータポイントは200を上回る。

 この状況を考えると、インボイスの作成と支払いのプロセスで、しばしばデータに食い違いが生じるのは意外なことでない。そしてインボイスの70%以上で照合が必要になるので取引コストが増大し、運送業者は支払いの遅れが生じることに不満を抱いていた。

 同社が分析を行ったところ、問題の根本原因を特定することができた。ウォルマート・カナダと運送業者の間で複数の情報システムが利用され、システム間に互換性がなかったのだ。その結果、データの照合を手作業で行う必要があった。データに不一致が散見されたことから、その作業には非常に多くの時間と人手を要した。

 ウォルマート・カナダのテクノロジー担当リーダーの一人が、あるアイデアを提案した。ブロックチェーンネットワークを構築して、プロセスを自動化してはどうか、というのだ。そのようなシステムがあれば、システム間の互換性の問題を克服し、すべての関係者が単一の正確な情報を共有できるようになると期待された。

 しかし、このアイデアに懐疑的な声も上がった。当時はまだ、ビジネスの重要領域でブロックチェーンが本格利用されていなかったためだ。加えて、ブロックチェーンにはさまざまなタイプがある。暗号通貨などに用いられるパブリックブロックチェーンがよいのか、それともプライベートブロックチェーンがよいのだろうか。